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「え? それ訊く? だってセルヴァが情に厚い人間だったら、そもそもレティちゃんは攫われたりしてないと思うよ?」


「それは……。ですが、国のことを思えば、『六聖の乙女』の言葉を無下にするわけにはいきませんでしょう?」


「そう? じゃあ、リヒト殿下は、『覇者にしてあげるから、クレメンツ殿下をください。そしてレア嬢を攫って、二度と戻ってこられないどこかへやっちゃってください』って『六聖の乙女』に頼まれたら、迷わずやっちゃうの?」


 グッと言葉を詰まらせたレティーツィアに、イアンがアメジストの双眸を細める。


「絶対にやんねーでしょ?」


「……そうですね。リヒト殿下はなさらないと思います」


「でしょ? 逆。逆。逆だよ、レティちゃん。国のことを思ったら、絶対にやんねーよ。世界六国の関係にヒビを入れることが何を意味するか、わからねーわけねーもんな」


「…………」


「リヒト殿下は、親父に『セルヴァには実質選択肢がなかった』って言ってくれたけど、それは殿下の恩情だと思うな。リヒト殿下やほかの皇子なら、同じように迫られたって、セルヴァとはまったく違う選択をしたはず。必ず、己の手で別の選択肢を作り上げたよ。それこそ、国のために。民のためにね」


 きっぱりと言って、イアンは抜けるように高い青空を見上げた。


「そりゃ、『六聖の乙女』の出現で、これから世界がどうなるかわからなくなってたよ?でもさぁ、そういう時こそ世界六国の絆って大事でしょ。次期君主としては、ほかの国を出し抜くことより、むしろしっかりと連携して情報共有して協力しあって、国にとって、そして民にとってよりよい形での『統一』を目指すべきじゃね?」


「そう……ですわね」


「話を持ちかけられた時、アイツの頭には国のことも民のこともなかったよ。間違いなく、露ほども考えなかったはずだ。自分が世界の覇者になるって、そのことしかね」


 苛立たしげにそう言って、イアンがため息をつく。


「アイツはそういうヤツなんだよ。外面はいいけど、究極自分のことしか考えられない。国よりも、民よりも、まず自分。だから、暗殺者なんかを側近にしてたんだよ」


「ノクスを?」


「そう。邪魔者を排除するしか能のねーやつを。そりゃ、ラクだよ。自分と対立する者がことごとく消えてくれたら。何年もかけてギリギリの交渉をしたり、相手が納得する解を用意するためのありとあらゆる努力を積み重ねたりしたりしなくていいんだもん」


「え……?」


 その言いように、レティーツィアは思わず目を丸くした。

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