15(改)
さっきイアンが顔を出した窓から、ほとんど同じ顔をした人物が身を乗り出していた。
「イアン! 待ちなさい!」
「ごめーん! ロイド! もうちょっと好きにさせてー! あとで謝るからー!」
足を止めるどころか振り返りもせず勝手なことを叫んで、レティーツィアの手を引いて庭園に飛び込む。「せっかく二人きりで話せるチャンスつかんだのに、これで終わりとか冗談じゃねーし」などと言いながら。
そうこうしているうちに、予鈴の鐘が鳴り響く。レティーツィアは走りながら、そっとため息をついた。
この――一国の皇子としてはありえないほどの型破りな破天荒さ。
彼が国主となったらいったい国はどうなってしまうのだろうと不安になってしまうほど無茶苦茶なのにもかかわらず、それでもその言動は『自由』を体現しているかのようで、なんとも魅力的だった。
(……間違いないわ)
この皇子は、『六恋』の攻略キャラクターだ。第三作目なのか、四作目なのか、それはわからないけれど。
(もしかして、一、二作目のヴェテルの攻略キャラクターであるノクスとセルヴァさまが退場したからなのかしら?)
だから、一、二作目のキャラクターと、それ以降のキャラクターが混じるなんてことが起きたのだろうか? もちろん、それをたしかめる術はないけれど。
「い、イアンさま……!」
どこまで行くのだろう? 息を切らしながら叫ぶと、イアンが「あ!」と叫んで唐突に足を止める。そしてそのまま勢いよく回れ右をすると、レティーツィアの顔を覗き込んだ。
「そっか。普段、御令嬢って走ったりしないよね。ごめんね? 大丈夫?」
「ええ、はい……。大丈夫ですわ……」
先ほどまでランチを楽しんでいたガセポへと続く、薔薇の小径。
さまざまな種類のさまざまな色合いの薔薇たちが、美しさを競うように咲き誇っている。
レティーツィアは呼吸を整えて、あらためてイアンを見上げた。
「あの、イアンさま。お伺いしても?」
「ん? なぁに? なんでも訊いてー」
イアンがレティーツィアの手を握ったまま、ニコニコと笑って小首を傾げる。
それもどうしてなのか訊きたいところだけれど、まずはあの言葉だ。
「セルヴァさまなら裏切って当然のように仰るのは、どうしてですか?」
レティーツィアにとっては当然の疑問だったのけれど、だがイアンにとってはそうではなかったらしい。イアンは驚いたように紫の目を見開いた。
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