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「……不用意な発言は、あなたの首を絞めるかもしれませんわよ。お控えなさいませ」


「あれ? 怒った? なんで? もしかして、セルヴァと仲良かった?」


 眉をひそめたレティーツィアに少し驚いた様子で首を傾げるも――イアンはすぐに目を細めた。


「違うよねぇ? 大して仲良くなかったから、裏切られたんだろ?」


「っ……それは……」


「いや、それも違うか。どれだけ仲良くても裏切るもんな、セルヴァなら。ホントにさぁ、怪我とかなくてよかったね。レティちゃん。アイツ相手に、それってわりと奇跡的なことなんだよ? 俺、最初にその話聞いた時は、マジでホッとしたよぉ~」


「え……?」


 その言葉に、再び目を見開く。レティーツィアはポカンとしてイアンを見上げた。


 セルヴァはとても大人びていて、穏やかで優しく、考え方が柔軟で視野も多角的で――個性的であるがゆえに何かと衝突しがちな世界六国の皇子たちのまとめ役だった。

 セルヴァにかんして、『裏切って当たり前』なんて評価は聞いたことがない。


「あの、それはどういう……」


 思わず眉をひそめた――その時だった。


「イアン!」


 少し遠くから、硬質な声が聞こえてくる。


「どこです? イアン!」


「やば……」


 イアンは首をすくめて、やれやれと息をついた。


「俺、ロイドを撒いて来たんだよねぇ。どうしてもレティちゃんに会いたくて。んも~、優秀で困っちゃうよ。もう追いついてきやがった」


「ロイド、という方はもしかして……」


「ウン、俺の兄貴。元・第三皇子のロイド・レイラーシュ・サウズミルド」


 そう言うと、イアンは悪戯っぽく笑って、素早く手を伸ばしてレティーツィアのそれを捕らえた。


「もうちょっとつきあってよ! レティちゃん!」


「えっ!? ちょっ……」


 それだけ言って、返事も聞かずにレティーツィアの手を引いて走り出す。


「お、お待ちください! そろそろ予鈴が……!」


「イアン!」


 さっきよりも近くから声がする。

 レティーツィアは手を引かれて走りながら、校舎を振り仰いだ。

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