20(改)
「……被害者が加害者に、いったいなんの用があんのかねぇ」
イアンが小さく呟いて、目を細める。
その――どこか凶暴さが垣間見える笑みにも怯むことなくまっすぐに見つめていると、イアンは楽しげにクスクスと笑って首を縦に振った。
「いいよぉ~。おもしろそうだしね」
「……! 本当ですか?」
「ほかならぬ、恩人(レティちゃん)の頼みだしね~」
そう言って、レティーツィアの手を引き寄せる。
そしてその中指に軽くキスをすると、その危険な香りのする笑みをさらに深めた。
「じゃあ、レティちゃん。俺とイケナイコトしよっか!」
―*◆*―
「ま、まさか、こんな方法で入れるなんて……」
「ねー? 俺の言ったとおりだったでしょ?」
無事――マリナ・グレイフォードが住まう学生寮の談話室まで来て、レティーツィアはほぅっと息をついた。
『各国の監視は、マリナちゃんが『寮から出てきて、勝手な行動する』ことを警戒してるだけで、犯罪者のように閉じ込めておこうとしているわけじゃない。そして、その寮にはほかにもたくさんの生徒たちが暮らしてるし、ほぼ全員が毎日寮と学園を行き来してる。それがどういうことかわかる?』
学園で、イアンが言った言葉が脳裏を巡る。
『監視は、寮から出てくる人間がマリナちゃんかどうかを見てるだけってこと。寮に住む生徒全員を把握して、注視しているなんてことはありえないし、そんなことはできないよ。ということは――だ。庶民の制服を着て、カツラを被るだけで、普通に正面から入れるよ。間違いなくね。寮に入ってゆく人間のことは、そこまで見てやしねぇから。繰り返すけど、寮に住む生徒全員の顔を覚えてる監視なんて、いるわけねぇんだから』
(まさかと思ったけれど、こんなに上手くいくなんて……)
本当に、庶民の制服を身に纏い、カツラを被って、下校する生徒が多い時間帯に普通に寮生にまぎれて正面玄関を通るだけ。それで、誰かに呼び止められることもなくするりと奥まで入れてしまった。
「悪知恵が働く方は、見ているところが違いますわね……」
「誉め言葉として受け取っておいてあげるねー」
イアンがにっこりと笑う。
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