21(改)
そんな彼に、乳白色の髪の小柄な女生徒が近づいて、そっと耳打ちをする。
女生徒の名前はサーシャ・ウォルキンス。ヴェテル出身で、庶民の制服やカツラなどを用意し、ここまで案内してくれた子だった。おそらく、イアンの手の者なのだろう。
「――ん。ありがとね」
イアンが頷くと、サーシャは深々と頭を下げて、談話室を出て行った。
「じゃあ、レティちゃん、こっちだよ。東棟の二階」
イアンに促されるまま談話室を出て、廊下を進む。
「一応サーシャからマリナちゃんに、『会いたいって言ってる人がいる』って話を通してもらったから、会えないってことはないと思うけど」
イアンがレティーツィアを肩越しに振り返って、「ここまで費やした労力が全部無駄になっちゃったらごめんね~」と笑う。
「いえ、会ってくれなかったとしたら、それはわたくしのせいですわ」
レティーツィアはマリナに会いたくとも、きっとマリナはレティーツィアになど二度と会いたくないと思っているだろうから。
「俺の名前はもちろん、レティちゃんの名前もまだ伝えてないってことだったけど?」
「だからですわ。私を一目見るなり、ドアを閉められる覚悟はしておいてくださいませ」
「え~? それはヤダなぁ~。せっかく綺麗な花束も持参したのにさ~」
廊下を挟んで南北に十部屋ずつ。東の奥――つまり廊下の一番端から、二〇一と二一一号室となっている。マリナの部屋は南側の二一三号室らしい。
話しているうちに、その二一三号室の前にたどり着く。
レティーツィアは胸にそっと手を当てて深呼吸をした。同時に、イアンが周りを見回し、誰もいないことを確認すると、ドアをノックした。
「――はい」
一拍置いて、ドアがゆっくりと開く。
イアンは素早くカツラを外すと、胸に手を当てて深々とお辞儀をした。
「六元素は風を司る国――ヴェテルの第四王子、イアン・フィアードラウル・ヴェテルと申します。突然の無礼をお許しください。マリナ・グレイフォード嬢」
顔を見せたマリナが、そのチョコレート色の瞳を見開く。
「え……? ヴェテルのって……」
「ええ。第二王子、セルヴァ・アルトゥール・ヴェテルの弟です。とはいえ、彼はすでに王族ではありませんが」
イアンは顔を上げると、マリナをまっすぐに見つめて、手にしていた花束を差し出した。
「どうしても、あなたに一目お会いしたかった」
「私、に……?」
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