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オレサマなくせにとびきり甘い言葉と、ダイ〇ンよりも吸引力のある色香溢れる視線と、乙女の憧れである手の甲へのキス――。リヒトの顔面をもってしてそれをすれば、これはもう立派な殺人行為だろう。ショックで動きを止めなかった心臓を褒めてやりたい。
レティーツィアは慌ててもう片方の手で口を塞ぎ、素早く顔をそむけた。
「……どういう反応だ。それは」
少しムッとした様子で、リヒトが眉をひそめる。
(あ、危ない! 殿下のご尊顔に鼻血ぶっぱなすところだった!)
なんとか耐えた鼻の粘膜は、あとで充分にねぎらってやらなくては!
「殿下は、ご自身の美しさを計算に入れたうえで、そういうことをなさってください! み、未来の国母として、鼻血を噴き散らかすわけにはゆきませんでしょう?」
「ああ、そういうことか」
なんだか少しホッとしたように息をついたリヒトに、イザークが「あれ? もしかして嫌がられたかと思って焦りました?」とからかうように笑って、レティーツィアを見る。
「いいんじゃないですか? 皇子の美しさに鼻血を噴き散らかす皇妃なんて、逆に親近感湧きそうですけど」
「私も、少なくとも悪印象にはならないと思います。皇子のことを大好きでいらっしゃる皇妃に眉をひそめる人なんているんですか?」
ヘラヘラと笑うイザークに「馬鹿なことを言わないでちょうだい!」と言おうとして、しかしそれよりも早く、エリザベートが思いがけず彼の援護射撃をして、驚く。
ポカンとしてエリザベートを見つめていると、リヒトがおもしろそうに目を細めた。
「だそうだぞ。存分に噴き散らかせ」
「い、嫌ですわ。わたくしは、できれば民が誇れる妃でありたいと思っておりますので」
「大丈夫です! 薔薇のごとく鮮やかな鮮血に塗れたレティーツィアさまも、お美しいと思いますよ!」
「何が大丈夫なのかまったくわかりませんけれど……」
綺麗な言葉で表現しても、鼻血は鼻血。それは間違いなく『醜態』だろう。
「あ、『六聖のごとき乙女』で思い出しましたけど、レティーツィアさまを誘拐した件で、セルヴァさまとノクスの処分が決まりましたよ」
「……! セルヴァさまの?」
六元素は風を司る国――ヴェテルの第二王子、セルヴァ・アルトゥール・ヴェテル。
豊かに波打つ白髪に、大人の色香に満ちた葡萄色の瞳。清廉潔白なイメージに反して、優雅ながらもどこか危険な香りのする――妖しい魅力に満ちた皇子だ。
彼は、『六聖の乙女』に命じられるまま、リヒトから引き離す目的でレティーツィアを攫い、監禁した。
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