2(改)

「わたくしは大好きですわっ!」


 力強く宣言すると、エリザベートが照れた様子で「ありがとうございます」と微笑む。


「レティーツィアさまをブスとするならの話ですよ? 一般的な基準なら、さすがに鼠の糞は言いすぎだと思いますけど」


「それにしてもだ。もう少し自分に自信を持て。大丈夫だ。お前は可愛いぞ」


 リヒトの金色の瞳に見つめられて『可愛い』などと言われて平静を保てる乙女はいない。エリザベートは顔を真っ赤にして俯いた

 両手で包み込んだエリザベートの手が、熱く震える。


「とにかく、レティーツィアをブスと侮辱した覚えはない。そんな思ってもいないことを言うものか」


「殿下は、レティーツィアさまのお顔が大好きですもんね」 


「え……?」


 思いがけない言葉に目を見開いたレティーツィアの視線の先で、リヒトが余計なことを言うなとばかりに、自身の右腕をにらみつける。


 シュトラール皇国第一皇子――リヒト殿下の従者、イザーク・リード。ふわふわとした軽いライトブラウンの髪に、同じ色の穏やかな瞳。柔和な印象の好青年だ。


 中身は、かなりの腹黒で底意地が悪い。三度の飯よりも人の不幸が好き。


 主を怒らせたところでなにも感じないのだろう。ヘラヘラ笑って、スコーンにぱくつく。そもそも、従者が主人と同じ席につくなど、本来ならば許されることではない。

 いくら主人がいいと言ったからといって、普通ならば恐れ多くてできないことなのだが、イザークは平気で隣に座り、もりもりものを食べる。それだけで、彼がどれだけ図太いかわかるというものだ。


 そんな従者の余計な一言にリヒトは肩をすくめると、レティーツィアに視線を戻した。


「今朝からずっと、かなり機嫌が悪いだろう? なにかあったのか?」


「えっ……!?」


 なぜわかったのだろう?


 レティーツィアは目を丸くして、指先で頬をそっと撫でた。


「態度には出さないようにしていたつもりだったのですが、申し訳ありません。不愉快な思いをさせてしまいましたか?」


「まぁ、そうだな。上手く隠してはいたな」


 リヒトの長くて綺麗な指が、銀のフォークを摘まみ上げる。


「私とイザーク以外は気づかないレベルの巧妙さだったぞ」


「一番気づかれてはいけない殿下に気づかれている時点で、巧妙もなにもないのですが」


 リヒトがチキンサラダを口に運ぶさまをじっくりと堪能しながら、小さく息をつく。

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