第一章 フラグは唐突にぶち立つもの。乙女ゲームですもの!
1(改)
「いったいなにをブスったれているんだ? 我が婚約者殿は」
雲一つない青空の下、降り注ぐ陽光に鮮やかな新緑が煌めく。
六聖アエテルニタス学園の中庭にある――美しい薔薇園。薔薇垣の間を縫うように走る小径を進んだ先の、メルヘンチックな白いとんがり屋根のガセポ。
それを囲むフェンス仕立ての薔薇は赤、黄、オレンジ、ピンク、紫、白と色とりどりで、今が盛りと咲き誇り、あたりに甘い香りを漂わせている。
白いテーブルの上にはスモークサーモンときゅうりのサンドウィッチに、チキンサラダ、ローストビーフ、数種の焼き菓子にクリームたっぷりのトライフルなどがずらりと並んでいる。今日のランチも美味しそうだ。
わくわくしながら給仕を待っていたレティーツィアは、リヒトの唐突な言葉に顔を上げ、思わず眉をひそめた。
急になにを言い出したのだろう? 今、そんな話をしていただろうか。
「どうせブスですわ」
神の光をそのまま擬人化したようなリヒトと比べたら、たしかに自分などブスの部類に入ってもおかしくない。
ため息をついたレティーツィアに、だが言い出しっぺのリヒトは何を言っているんだとばかりに眉を寄せた。
「違う。そういう意味じゃない。言葉は正確に聞け」
「そうですよ。レティーツィアさまのどこがブスだって言うんですか? レティーツィアさまがブスなら、私なんか鼠の糞じゃないですか」
エリザベートもまた、レティーツィアのために料理を取り分けながら、顔をしかめる。
エルザベート・アルディ。レティ―ツィアと同じ歳で、紅茶色のおさげ髪に、今まさに世界を彩っている春の新緑のような瞳。かなり小柄で、大きなとんぼ眼鏡が印象的な子だ。
「ね、鼠の糞って……」
「謙遜がすぎるのではないか? それほど悪くはなかろうよ」
「わ、悪くないどころか!」
レティーツィアは首を振って、隣に座るエリザベートのトングを握る手を両手で包んだ。
「エリザベートさんはとてもお可愛らしいですっ!」
「レティーツィアさま……」
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