23(改)
「どうやら、私はヒロインの資格を失ったようですね」
自嘲気味にそう言って、片方のベッドを示す。
「どうぞ座ってください。二人部屋を一人で使わせてもらってるので、そちらのベッドは綺麗です」
「――ありがとう」
レティーツィアはお礼を言って、モスグリーンのシーツの上に腰を下ろした。
「ええと、訊いてもよろしいでしょうか? あなたがヒロインの資格を失ったというのは、どういうことかしら?」
「は? そういう話がしたかったんじゃないんですか?」
わかり切ったことを訊くなとばかりに、マリナが顔をしかめる。
和やかに話ができるとは思っていなかったけれど、思っていた以上に声も表情も冷たい。
レティーツィアは小さく首をすくめて、そっと息をついた。
「ええ、そのとおりです。でも、実はわたくし、『六恋』の続編はプレイしていませんの。どうやら、続編制作の一報の直後に命を落としたようでして……」
「えっ!?」
思いがけない言葉だったのか、マリナが目を丸くする。
「嘘でしょ……? まさか……!」
「本当です。それもあり、先ほどのマリナさんの言葉の意味もよくわかっていないのです。続編はヒロイン以外のキャラは変わらず、攻略対象が十人に増えることは知っていたので、続編でも引き続き攻略対象であるノクスと、新たに攻略対象になるはずのセルヴァさまが学園を去られ、イアンさまがヴェテルの次期君主として学園に通われることになったのは、いったいどういうことなのかと……同じく前世の記憶を持つあなたからお話を聞きたくて、こちらに伺ったのです」
マリナがびっくり眼のまま勉強机の椅子を引き寄せて、座る。
信じられないとばかりに「じゃあ、あれはまったくの偶然なの……?」と零した。
「レ、レティーツィアさま、本当に続編をプレイされていないんですか? 本当に?」
「誓って本当ですわ。続編制作決定の一報、第一弾のトレーラー、わたくしの『六恋』にかんする記憶はそこで終わっています」
その後の記憶は、ものすごい勢いで迫り来るトラックのライトの眩しさだけだ。
ゾクリと背中が戦慄く。
その死の記憶を振り払うように、レティーツィアはふるふると首を横に振った。
「わたくしも本当にプレイしたかったですわ! とくに、アレクシスルートを!」
「え? アレクシスルート? 生前のレティーツィアさまの最推しはアレクシスだったんですか?」
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