13(改)
ふるまいが王位継承権を持つ皇子としてふさわしいものだったのは、ほんの一瞬のこと。すぐに距離感が迷子な雑な口調に戻ってしまう。いったい、どういう皇子なのだろう?
レティーツィアは困惑しつつ、おずおずと頷いた。
「はい、そうですが……」
「やったぁ、会えた! 俺ねぇ、どうしても、レティちゃんとマリナちゃんには個人的に会って話がしたかったんだぁ~!」
「は……?」
マリナちゃん――? それは、マリナ・グレイフォードのことだろうか?
「個人的に、ですか?」
「そう。選ばれし者が集うサロンとかで紹介される感じじゃなくて。ま、マリナちゃんを紹介してくれる人はもういねーだろうけど」
なぜサロンでみんな揃っての顔合わせでは駄目なのだろう? マリナはともかくとして、レティーツィアと個人的に話がしたい――その理由は?
「どうしてか、伺っても?」
ピリリと、背中に緊張感のようなものが走る。レティーツィアは小さく唇を噛み締めた。
六聖のごとき乙女の話題のせいだろうか? いつになく話し込んでしまったのもあって、教室まで送るというエリザベートの申し出を断ってしまった。
ノクスによってランチ時に学園から攫われて以来、リヒトもイザークもエリザベートも極力レティーツィアを一人にしないようにしてくれているが、三年の校舎は二年のそれと離れているし、エリザベートは同じ二年生だが別クラス。彼女のクラスの今日の午後一の授業は音楽で――つまり移動教室。誰よりも急がなくてはいけない状況で、自分のことで煩わせたくなかったからだ。
(もしかしなくとも、失敗した――?)
両手をギュッと握り合わせると、レティーツィアの警戒心に気づいて――だろうか? イアンがなんだか楽しげにニヤリと笑った。
「もちろん、お礼が言いたかったからだよ」
「お礼……?」
「そう、セルヴァを潰してくれてありがとうって」
「――っ!」
思いがけない言葉に、衝撃が走る。
(潰して、くれて――?)
もちろん、セルヴァが排斥されなければイアンが皇太子になることはなかったのだから、喜ぶ気持ちはわからなくもない。だが、それを堂々とのたまうなど――ましてや攫われた本人に告げるなど、どうかしているのではないか。
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