12(改)
そんなレティーツィアにリヒトは眉をひそめ、そっとイザークと視線を交わしあった。
―*◆*―
「あ~? レティちゃんだぁ~!」
「は……?」
突然頭上から降ってきたのんびりした声に、レティーツィアは目を丸くした。
(レ、レティちゃん!?)
親にだって、そんなふうに呼ばれたことはない。
失礼ではないかと眉を寄せて上を見上げると、校舎の二階の窓から下を覗き込むように顔を出していた人物と目が合う。
「……!」
好き勝手な方向を向いたロングウルフの白髪が、ひらりと風に踊る。
少し目尻が下がった切れ長の瞳は、鮮やかな紫。すっと通った鼻筋に、引き締まった頬、唇は薄く、その口もとは甘やかながら皮肉げに歪んでいる。
そして、その身にまとっている制服は純白――選ばれし者のそれだった。
(白髪! もしかして、ヴェテルの!?)
目を見開いたレティーツィアに、その生徒がニィッと唇の端を持ち上げる。
「ねぇねぇ~! ちょっと待ってくれない?」
「待ってと言われましても……」
礼儀も何もあったものではない言葉遣いに戸惑いつつさらに眉を寄せると、その生徒は「すぐそっちに行くから~」と言って、不意に窓から身を躍らせた。
「っ!? あ、危なっ……!」
思っても見なかった行動にギョッとして身を震わせた瞬間、その生徒は空中で一回転、軽やかに地面に着地した。
「六元素は風を司る国――ヴェテルの第四王子、イアン・フィアードラウル・ヴェテルと申します。以後、どうぞお見知りおきを」
そして、そのまま胸に手を当てて、ひどく優雅に一礼する。ぞんざいな口をきいていたさっきまでとは、すごい違いだ。
レティーツィアはポカンとイアンを見つめたあと、目を丸くしたまま制服のスカートを軽くつまんで頭を下げた。
「あの、レティーツィア・フォン・アーレンスマイヤーと申します」
「シュトラールの皇子の婚約者の、だよね? あってる?」
頭を上げないうちに、イアンが身を乗り出す。
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