28(改)

 その言葉に、思わず目を見開く。


(何? その言葉……)


 まるで、二作目のヒロインがすでにレティーツィアの傍にいるかのようではないか。


 言葉を失うレティーツィアの視線の先で、マリナが「本当に何を見ていたんだろう」と悔しげに顔を歪めた。


「最初からレティーツィアさまを『意地悪な悪役令嬢』と決めつけて、そのフィルターを通してしか見ていなかったんですね。レティーツィアさまのすべての言動を、悪いように悪いように捻じ曲げて、勝手な解釈をして、『リヒト殿下の隣にふさわしくない』って、『私(ヒロイン)は悪役令嬢を排除しなきゃ幸せになれない』って思い込んで……」


 そう言って「本当に……もう少しちゃんと周りを見ていたら……」とさらに唇を噛む。


「もうどうしようもないことにこだわったところでみっともないだけなのはわかってます。それでも……やっぱり悔しいです。ゲームのシナリオどおりにすればいいと思い込まずに、シナリオの狂いを誰かのせいにせずに、ちゃんと周りを見て状況判断をしていたら……」


 まったく違う未来が待っていたかもしれないのに――。


「マリナさん……あの……」


「……だから、レティーツィアさま。どうか負けないでくださいね?」


 なんと声をかけていいやらわからず口ごもるレティーツィアに、マリナが寂しげに笑う。


「ゲームの強制力に……次のヒロインなんかに、負けないでください」


「マリナさん……」


「ここまで来たら、お二人には幸せになっていただきたいです。次のヒロインにあっさり負けられたら、立つ瀬がありません。私が冷静に状況を判断して、シナリオだけに頼らず自分を磨きに磨いて、人間関係も一からちゃんと構築して、努力に努力を重ねたところで、それでもお二人の仲を引き裂くことはできなかったのだと……そう思えるように、どうか幸せになってください」


 そう言って、深々と頭を下げる。


「申し訳ありません。お二人の仲を引き裂こうとした私が言うことではありませんが……。でもそうなってくれたら、少しは救われます……」


「……マリナさん……」


 レティーツィアはその震える細い肩を見つめると、胸に手を当てて大きく頷いた。


「ええ、お約束いたしますわ! リヒト殿下はわたくしが必ず幸せにします!」


「……! レティーツィアさま……」


 弾かれたように顔を上げたマリナに、にっこりと笑いかける。

 マリナは今にも泣きだしそうに顔を歪めて「ありがとうございます」と小さく呟いて、大きく息を吸った。


「第二作目のヒロインは双子です。自身が双子であることも、お互いの存在も知らずに、別々に育った姉妹――」


「双子の姉妹……」


「ツンデレの名前は、クラウディア・ネルト」


 レティーツィアをまっすぐに見つめるチョコレート色の瞳に、鋭い光が宿る。


「もう一人の名前は、エリザベート・アルディ」


「――ッ!?」


 衝撃が身を貫き、レティーツィアは反射的に立ち上がった。


「エリザ、ベート……さんが……?」


 続編のヒロイン――!?


「そして、全攻略キャラクター十人のうち、エリザベート選択時に攻略対象となる五人は、エメロードのリアム殿下、キュアノスのクレメンス殿下、セルヴァ殿下の従者・ノクス、リヒト殿下の従者・イザーク、そして――」


 ああ、まさか! そんな!


 思わず、両手で口もとを覆う。


「シュトラールのリヒト殿下です」




 戦慄が走った。




 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る