8(改)

「なるほど、理解しました」


「現在のヴェテル王には五人の御子がいらしたんですが、第一皇子は早くに早世なされて、第二皇子のセルヴァさまは王籍を剥奪されました。順番的に次は第一皇女となるのですが、ヴェテルでは女性が王位を継ぐことはできませんので、第一皇女は王位継承権はお持ちになりません。そのため、現在の王位継承権第一位は、末っ子の皇子となります」


「え……?」


 レティーツィアは目を瞬かせて、再びイザークを見つめた。


「待って。計算がおかしいわ。五人の御子がいらしたのでしょう? 第一皇子、第二皇子、第一皇女、これで三人よ? 末っ子ということは順番的には五人目でしょう? 四人目はどうしたの?」


「それがね? なかなかおもしろいんです」


 イザークが、リヒトの皿におかわりのローストビーフを取り分けながら、意味ありげににんまりと笑う。


「四人目と末っ子は双子なんですよ。第三皇子と第四皇子になります」


「双子?」


「ええ。四人目である兄のほう――第三皇子は、十歳の時に王籍を返上しているそうです。つまり、自分から臣下の身分になったんですよ」


「ええっ!?」


 王族という身分を、自ら捨てた――!?


「自らってことは、罪を犯したというわけではないのよね?」


「ええ、違います。セルヴァさまのように何かの罰として王族という身分を剥奪されたのではなく、本当に自ら臣下になりたいと申し出たという話です」


「それは、どうして?」


「双子の片割れの傍にいたいからだとか」


 予想外の――だがなんとも興味を惹かれる答えに、エリザベートと顔を見合わせる。


「リヒト殿下にとっての僕やラシード殿下にとってのアーシムのように、王位継承者には、常にお傍に在り続ける従者が存在します。つまり第四皇子は、第五皇子にとってのそれになりたかったんだそうです。常に、双子の片割れとともに在りたかったから、と」


「そ、そのために、自ら臣下に?」


 エリザベートが両手で頬を包み、「素敵ですねぇ! キュンキュンします~!」と言う。


「ええ、そのとおりね」


 エリザベートの言うとおり、とても乙女心をくすぐる設定だ。


 いかにも乙女ゲームらしいのは、気のせいだろうか?


(もしかして、ゲームのキャラだったりするのかしら?)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る