彷徨の船、乗るは二人

「おい、そっちの竿引いてるぞ」「は?お前がやれよバーカ」「アアンなんだてめえ」「うるせえ腹減ってんだよのども乾いてんだよお前やれよ」「何言ってやがるよこっちだって腹減ってるしのども乾いてるんだよ分かってるだろうがお前も」「あーやだやだこれだから年行ってるやつは」「若造の言うことは違いまちゅねーじゃねえんだよこらもう逃げるじゃないかこれ!貴重な飯逃すな!」「だークソ重い!手伝え!」


――なんで、こんなことになったんだったっけ。



川。そう聞いてどんなものを思い浮かべるだろうか。


渓流のせせらぎがきもちいい小河か。

近くの人間たちへ豊穣を約束する穏やかな川か。

あるいは。


――私たちの漂流していて、両岸が見えないぐらいクッソどでかい”海”って表現しかねないぐらいのヤバイ川か。


「いや、マジでクソでかいなこの川。淡水じゃなければ海って言ってたぞ」

「…全く、何でうちの国は態々こんなクソでかい川渡って戦争なんて仕掛けたんだ…」


――そして何の因果か、壊れた船に私と、敵国の女兵士が一人。


「さて、まあどう見ても私らは漂流してるわけだが」「おう」


「幸いなことに竿が二本はあったのでそっち一本こっち一本な」「釣れたらよこせ」「ヤなこった態々戦争相手に食いもの渡すやつがいるか」「うるせーバカ塩分けてやらねえぞ」「………」「………」


――まあ、そんな感じで。やりたくもない共同生活が幕を開けているのだった。



「てゆーかこれどこまで流れていくんだホント…」

どうにかこうにか一匹連れた魚を分け合う。火が起せないので生だ。腹を壊すかもしれんけどもうどうにもならんし。


「どっちかのドンパチにでもかち合えばすぐにでもおばさんと離れられるんだけどなあ」

「あ”あ”?若いからって調子乗ってるとすぐガタが来るぞ」

「俺は大丈夫デースべろべろべー」


かれこれ1か月ぐらい暮らしてきたが、このクソガキはむかつく。



――夜。何かの音で目がさめた。

何かと思ったら、あのクソガキ泣いてるようだ。


「…うっ、うっ…」


――なんとも聞いちゃいかん事聞いた気分だ。


ここで放っておければよかったんだけどなあ。


「おーい、ママのおっぱいでも恋しいんか」

「ッ、お、お前起きてたのかよ!」

「当たり前のこんこんちきよ」


まーついついかまってやりたくなっちまうんだよなあ。


というわけで背中から抱き着いてやる。コイツちっさいな思ったより。


「んな、ななななにを」

「こーいうのは大概人肌を感じると忘れられる、へいきへいき」


ぽふん、ぽふん。ついでに撫でてやる。こうしていると昔を思い出す…


「大丈夫、大丈夫」

「ッ……うん……」


借りてきた猫のようになってやがる。普段の憎まれ口叩いてるやつと同じとは思えんな…



いよいよ状況がヤバくなってきた。


「……なあ、俺が死んだらアンタ、俺食え…」

「ばかいえー…大人だから私の方が先に死ぬわ…体積もデカいし…」


そんな感じの死にかけジョーク(このままじゃジョークじゃなくなりそうだが)をしていたら。


「……あー。なんかさ、幻覚みたいなもんが見えるんだけど、島?」

「は、島?川じゃないのかよ幻覚だろ…あれ、俺にも見える」


なんか島があった。どうにか上陸してとりあえずは何とかなった。


――全然帰りつけないのは変わらなかった。



「違う違う、石器の作りはこうで、紐の作り方は――」

「…いやなんであんたそんなこと知ってるんだよ!助かってるけど!」


とまあそんなわけで、二人の彷徨はまだまだ続きそうなのであった。

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