血の雨は止まない

血の雨が降った。

とてもとても綺麗だと思った。

――止ませたくない。と思ったのだ。


教室の中で話し声が聞こえる。


「聞いた?今月で3人目だって」

「聞いた聞いた、怖いよねー」


――この世界には、”怪人”がいる。


――今日も教室は世間をにぎわせる怪人、”ブラッドレイン”の話題で持ちきりだ。


――だけど私は知っている。

――その怪人の正体が。


「…ぐすぴー」


――この、私の目の前で眠っている、普通の女子高生にしか見えない雨野さんだということを。



放課後になる。

みんなが帰る。

雨野さんも。


私はついていく。ばれないようにこっそりと。

――今日も又、血の雨が降るのではないかと期待して。



彼女は寝ぼけ眼で街を歩く。普段からずっと眠そうだ。


「むにゃむにゃ…」


ふらり、ふらりと夕焼けの街を歩く。

こそり、こそりと私はついていく。


ばれてはいないのだろうか。ばれたらどうなるのだろう。

――私も、血の雨になるのだろうか。

――ああ、それは、とても素敵だと思えた。


橋に差し掛かる。内部への入り口が見える。

彼女は”立ち入り禁止”の看板を無視してその中に入っていく。

当然私も。


真っ暗の中をストーキングする。

ばれてるのかな、ばれてないのかな、私はばれてもいいんだけどな。


橋の下に出る。空はもう真っ暗になっていた。

こっそり、こっそりとついていく。

恐怖と好奇心と”好き”という心がないまぜになって、とても楽しい。



――今日は獲物が見つからなかったみたいだ、残念。

彼女が家に戻ろうとしているみたいだ。

ついつい、とついていってしまう。


――角を曲がったら、彼女にナイフを突きつけられていた。

――体温が上がる、興奮か、恐怖か、それ以外の何かなのか。

私にはわからない。


「…君…今日、ずっと私をつけまわしてたね…」

「は、はい」

「…なんで?」

こてん、と首をかしげる。雨野さんのこういう動作はとてもかわいらしい。


「なんでって、そりゃあ…貴女が降らす血の雨がまた見たくって…」

「…?貴女、変わってる」

つつつ、とナイフで首筋をもてあそばれる、いつでも切れるのだろう


――とても、興奮する。


「貴女がなっても、いいのかな?」

「…ああ、それはとても、気持ちのよいことですねぇ…」

「…やっぱり変わり者」


ナイフをしまわれる。切る価値もないと思われたのか、とても残念。


「…貴女、明日からついてきていいよ」

「――へ?」


――思考が一瞬止まった。


「こそこそといられるよりその方がいい」


とまあそう言うことだったらしい。

私に否やは当然なかった。



そうして私は彼女の助手?みたいなことをやり始めた。


場所の選定、散歩ルートの開拓、後片付けetc。


彼女を助けて、血の雨を見る。

――それは、とても幸せな日々だった。



――そして、当然終わりの日が来る。

私の目の前で怪人と雨野さんが倒れる。


「雨野さん!」


まあ当然だ。こんなことを長々と続けられるはずもない。分かっていたことだ。


…”怪人”というのが本当にいるとは思ってなかったけれど。

――そして、それから雨野さんが私をかばうことも、思ってなかったけれど。


「なんで、なんで私を…」

私は叫ぶ。


「…だっ、て」

彼女が応える。最期の言葉で。


「…綺麗だって、言ってもらえて」

「たす けて…もらって」

「とても、うれし…かった…」

「―――」


――いや、まだだ。

――最期にはさせない。


――怪人が生まれるには、”条件”がある。

――それは、望みだったり、心だったり、色々あるけれど――


――私の場合は。

――彼女を。

――忘れさせたくなかった。


自分の体が変わることを感じる。

――いつも、誰よりも近くで見ていた彼女の姿に。

彼女の遺品を剥ぐ。

今ココに転がっているのはただの”雨野さん”だ。


――そう、今からは。

――今からは、私が”ブラッドレイン”だ。



夜の街に流れる噂。

路地裏には、血の雨が降る。


止むこともなく。

止まることもなく。


――それを見たものは。


「…綺麗でしょ?君もやるかい?」


――又、血の雨を降らせるようになる。

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