血の雨は止まない
血の雨が降った。
とてもとても綺麗だと思った。
――止ませたくない。と思ったのだ。
◆
教室の中で話し声が聞こえる。
「聞いた?今月で3人目だって」
「聞いた聞いた、怖いよねー」
――この世界には、”怪人”がいる。
――今日も教室は世間をにぎわせる怪人、”ブラッドレイン”の話題で持ちきりだ。
――だけど私は知っている。
――その怪人の正体が。
「…ぐすぴー」
――この、私の目の前で眠っている、普通の女子高生にしか見えない雨野さんだということを。
◆
放課後になる。
みんなが帰る。
雨野さんも。
私はついていく。ばれないようにこっそりと。
――今日も又、血の雨が降るのではないかと期待して。
◆
彼女は寝ぼけ眼で街を歩く。普段からずっと眠そうだ。
「むにゃむにゃ…」
ふらり、ふらりと夕焼けの街を歩く。
こそり、こそりと私はついていく。
ばれてはいないのだろうか。ばれたらどうなるのだろう。
――私も、血の雨になるのだろうか。
――ああ、それは、とても素敵だと思えた。
橋に差し掛かる。内部への入り口が見える。
彼女は”立ち入り禁止”の看板を無視してその中に入っていく。
当然私も。
真っ暗の中をストーキングする。
ばれてるのかな、ばれてないのかな、私はばれてもいいんだけどな。
橋の下に出る。空はもう真っ暗になっていた。
こっそり、こっそりとついていく。
恐怖と好奇心と”好き”という心がないまぜになって、とても楽しい。
◆
――今日は獲物が見つからなかったみたいだ、残念。
彼女が家に戻ろうとしているみたいだ。
ついつい、とついていってしまう。
――角を曲がったら、彼女にナイフを突きつけられていた。
――体温が上がる、興奮か、恐怖か、それ以外の何かなのか。
私にはわからない。
「…君…今日、ずっと私をつけまわしてたね…」
「は、はい」
「…なんで?」
こてん、と首をかしげる。雨野さんのこういう動作はとてもかわいらしい。
「なんでって、そりゃあ…貴女が降らす血の雨がまた見たくって…」
「…?貴女、変わってる」
つつつ、とナイフで首筋をもてあそばれる、いつでも切れるのだろう
――とても、興奮する。
「貴女がなっても、いいのかな?」
「…ああ、それはとても、気持ちのよいことですねぇ…」
「…やっぱり変わり者」
ナイフをしまわれる。切る価値もないと思われたのか、とても残念。
「…貴女、明日からついてきていいよ」
「――へ?」
――思考が一瞬止まった。
「こそこそといられるよりその方がいい」
とまあそう言うことだったらしい。
私に否やは当然なかった。
◆
そうして私は彼女の助手?みたいなことをやり始めた。
場所の選定、散歩ルートの開拓、後片付けetc。
彼女を助けて、血の雨を見る。
――それは、とても幸せな日々だった。
◆
――そして、当然終わりの日が来る。
私の目の前で怪人と雨野さんが倒れる。
「雨野さん!」
まあ当然だ。こんなことを長々と続けられるはずもない。分かっていたことだ。
…”怪人”というのが本当にいるとは思ってなかったけれど。
――そして、それから雨野さんが私をかばうことも、思ってなかったけれど。
「なんで、なんで私を…」
私は叫ぶ。
「…だっ、て」
彼女が応える。最期の言葉で。
「…綺麗だって、言ってもらえて」
「たす けて…もらって」
「とても、うれし…かった…」
「―――」
――いや、まだだ。
――最期にはさせない。
――怪人が生まれるには、”条件”がある。
――それは、望みだったり、心だったり、色々あるけれど――
――私の場合は。
――彼女を。
――忘れさせたくなかった。
自分の体が変わることを感じる。
――いつも、誰よりも近くで見ていた彼女の姿に。
彼女の遺品を剥ぐ。
今ココに転がっているのはただの”雨野さん”だ。
――そう、今からは。
――今からは、私が”ブラッドレイン”だ。
◆
夜の街に流れる噂。
路地裏には、血の雨が降る。
止むこともなく。
止まることもなく。
――それを見たものは。
「…綺麗でしょ?君もやるかい?」
――又、血の雨を降らせるようになる。
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