詐欺師の付く嘘
――お嬢さん、嘘をついてはいけないよ。
――何故かって?それはね…
――嘘をつきすぎると、自分自身に嘘をつくようになるからさ。
――ほら、しっかり見て見て。
――あの人とか、自分をだまし続けてるよ。
◆
人っていうものは、自分の観たいものだけ見るものだ。
「~♪上手くいった~♪」
だからそれを使って人を騙す、それが私の生業。足取りが軽い。
私は詐欺師。
嘘をつく生き物。/嘘だけど。嘘なんてつきたくない。
◆
とかく、この現代の世には変なものがいるみたいで。
「ガルルルル…」「わお」
――詐欺を働いてたら、奥から獣の耳としっぽ、――あれは犬のかな――が生えた年端もいかない女の子が飛び出して来て詐欺相手を惨殺していった。
見た目からして捕まってた、とかそんな感じかな…
そしてまあなんか私と膠着状態になってるんだけど。
まあとりあえず話してみよう。
「えーと、日本語わかる?」「フシューッ」
威嚇された。でも話を聞くつもりはあるみたい?
「意外と通じそうだねえ」「シャーッ」
かわいくない。もふもふしたくない。/嘘だけど。かわいいしもふりたい。
「ガウッ!」「ッ」
がじっ。左の二の腕を噛まれる。
「…痛くないよ」/嘘だけど。めっちゃ痛い。
なんとなくわかった。この子は怯えている。
虐待みたいなことを受けてたみたいだし、さもありなん。
噛まれたまま背中をぽふんぽふんと優しくたたく。
あー、痛くない。/嘘だけど。痛いよ。
「…グルル…」
少しおとなしくなる。うん。
「…私人でなしの詐欺師だけど、一緒に来る?」
「…………ウ」
というわけで私は、なんか獣人の女の子を拾ったのでした。
◆
――そんなことがあってから結構立った。
「オラ―ッ!このグルル様をなめんじゃねーぞ!」
回し蹴りが頭部直撃。あれは痛いね、めっちゃ痛い。
ドゴーン、吹っ飛んだ取引相手が叫ぶ。
「ぎゃーっ!すんません払います払いますって!」
――ちみっちゃかったあの子はこんなにでかくなった。
私よりでかい。しかも強い。
頼りになるボディーガードだ。
闘ってもらってもうれしくはないけど。/嘘だけど。守ってくれてうれしい。
「あんまりやり過ぎないようにねーグルル」
「わかってるってご主人!」
しっぽがスゴイパタパタしている。褒めてほしそう。
――しかし、嘘の付けない子だなあ。
「次ご主人を舐め腐った真似したらてめーの骨の髄まで使って立派なラーメンのだしを作って食ってやるから覚悟しやがれ!」
立派に育ってうれしいよ。/嘘だけど。教育間違えたかなあ、と思わなくもないけど。
◆
「というわけで、君ももうそろそろ成人だから解放しようと思うんだ」と言ったらなんか押し倒された。
元々肉体的な強さではかないっこない。
「何してるの」/嘘だけど。理由は大体わかってる。
「嘘こけ、大体わかってるだろ、アンタの嘘わかりやすいんだよ」
じーっとこっちの眼を見てくる。やりづらい。
爪が肩を押してくる。
痛…くないや。気を使われてる。
「わかりやすいとはひどいなあ」
「わかりやすいわ、アンタ嘘しか言わねえんだもんよ、逆にびっくりするぐらいの正直者だよアンタ」
――そうかなあ。/嘘だけど。自分でもわかってた。
「どーせアンタ見栄っ張りだから”年上ぶって子供のグルルを解放してあげよー”とか考えてるだろふざけんなわかってるだろアンタ全部全部!」
「わかってて自分に嘘をつき続けるのはやめてくれ!」
――うん、たぶんそうなのだ。私は全部自分で分かってるはず。
――でも、あまりに長く嘘をつきすぎて、自分でわからなくなっていた。
――だから私はこういうしかない。
「わかんないなあ」/嘘だけど。でも”嘘”は暴いてもらわないと。
「じゃあ言ってみろ、俺のこと好きか?」
そう聞いてくる。もはや予定調和だ。
「…好きじゃないよー」/嘘だけど。大好き。
「わかってんじゃねえかボケ」
首筋に噛みついてくる。痛くはない。
一挙一動から私を気遣ってるのが伝わってくる。
言葉を重ねるよりもよほど雄弁に。
「…アンタ、ホントわかりやすいよ」
「こうされたかったんだな、アンタ」
――うん、たぶんそう。
――私は、こうでもされないと素直になることもできなくなっていた。
グルルは最早私と言葉を重ねず、私のしてほしいことをすべてしてくれた。
「…俺があんたをもらってやるから、そのつもりでな」
――しっかり言い訳まで用意してくれた。
◆
「あ”あ”~これは仕方ない、モフモフしてくれって言われたから仕方ない」/嘘だけど。ホントはずっとこうしたかった。
「そうそう、仕方ない仕方ない、だから存分にもふってくれよー」
――とまあ、嘘をつき続けると面倒だねって言うお話だったのさ。ちゃんちゃん。
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