「手に入れる」という事

――もし、”これ”を続けていけば。

私は、貴女を手に入れられるのだろうか。

それとも――



「――っそ暑い、なんだこの暑さ、どうにか出来ねえのか、サミダレ」


西暦、2435年、7月。

何だかんだで人類はまだ存続していた。


『出来るわけないでしょー、私に出来ることはちゃーんとスペック表に全部書いてありますー』


――ただ、それは「今までの形のまま」存続できていたわけではなく。


「チッ、涼しそうな名前してるくせによ…」


――つまり、度重なる環境破壊、環境汚染、あるいは生態系の破壊などによって、出来上がったこの環境。


およそ日中気温は100度を超え、夜は逆に―40度を下回ることが日常となり。


『はいはい、アンタがつけた名前でしょう…あ、いた』


「おっと、じゃあやるか…サミダレ、いつもの照準とこの辺の地形サポート頼む」


――その環境に適応した、バイオ生物と戦い(旧時代の実験体が野に放たれた結果らしい)。


『はいはーい、400メートル先、右方向に小高い丘があるよ』


「丘か…丘、好きじゃないんだよなあ」


――そして、それを人の身で成すために――


「よっと」ガゴン。ガゴンガゴン。


――人類は、新しく開発した、機械生命体との融合を推し進めていたのだった。


「見つかりたくねえし、ジェット推進は最低限。俺が跳んだ推進力の補助をメインで頼む」


『はいよー、というかアンタあまり飛びたがらないわね…』


「いや、やっぱりこういう体でも、自分の足で歩いたり飛んだりするの、好きなんだよ俺」


『…ふーん』


ドンッ。爆音を響かせ、彼女たちは跳んだ。



「――いやあ、まいったまいった」

『まいった、じゃないわよ』


――今日の戦闘は失敗だった。ちょっとミスって右腕をばっくり食べられてしまったのだ。


『これの修復するの誰だと思ってんのよ!』

「そりゃあ、天下無敵の俺の相棒、サミダレ大明神様だろ」

『ったくもう―!』


ちぎれ跳んだ右肩の根元の修復を胴体からしてもらっていく(すでに胴体のあたりは完全に機械化しているのでやりやすい)。


『こんなこと続いたらアンタの生体部分なくなっちゃうわよそのうち…』

「いやあ、俺はそれでもいいんだけどね」

『…馬鹿』


――俺の相棒は、こう言っているがまあ…そもそも遠からず、人類は全員機械化するんだと俺は思っている。


まあ、だって、人類はあまりに脆弱に過ぎる。


ガチン、ガチガチ。キュイイイン…


修復、または修理だろうか…をされていく右手を見ながら俺はそう考える。


「というか、もう肘あたりまで出来上がってんのか、早いな―サミダレ」

『アンタが部品なくしすぎなのよ!慣れちゃったわ!』


――今日なくした右手を除いて、俺の生体部分の残りは脳みそぐらいになった。


バチッ、バチバチ…溶接されていく右手を見ながら、俺は相棒に質問する。


「んなあ、サミダレさんよ」

『なによ、くだらない用事だったら痛みの信号暴発させるわよ』

「そいつはいやだねえ、いやさあ」


「もし、俺の頭ぶっ飛んだら、直してもらえるのかね?」

『…』


――実際のところ、まだ人類が”こう”なりだしてから左程の時間が立ってはいない。

おおよそ2,3か月って所だ。(俺の相棒の名前からもわかってもらえると思う)

殆ど人体実験の類だ。だから、こうしてわからないことも多々あるのだ。


「なーどうなんだよー大明神、このままじゃ気になって夜も12時間しか眠れないぜ」

『十分すぎるわ馬鹿!』


これだけ過酷な環境になり果ててなお綺麗な満月を見ながらそんな話をする。


『…実際問題、その時になってみないことには、わからないわ』

「ふーん?珍しいな、サミダレがそんなこと言うなんて、わかんないならわかんないなりに色々言うのに」


『…私にだっていろいろあんのよ、ほら修理終わり!さっさと寝て明日に備える!』

バチンッ!

「あ痛ってえ!痛いから信号出すのやめろ!神経系じゃないかこれ!」

『フンッ!』


――まあ、俺は別に、頭がぶっ飛んで、直してもらっても、もらえなくてもまあいいんだが。


俺のかわいい相棒はどう思ってるのかな、などとそう思ったのだ。



「( ˘ω˘)スヤァ…」

『…全く…人の気も知らないで』


――私はサミダレ。コイツ…名前はない、番号だけになったとか言っていた。…のサポート役。というかほぼ叱り役。


他のやつらは全員外付けのパワードスーツに”私たち”、つまり自我を持ったAI…というより機械生命体である、をつけているのだが。


――こいつだけ、”私”と融合するような施術を施されている。


――理由を聞いても、「何となくそうするのが一番いいと思った」とか言ってくる、わけわかんない。


――まあ実際その甲斐もあって、成績としてはぶっちぎりの一位なのだが。

――生体部分の損耗率も一番ぶっちぎりの一位なのだ。馬鹿なのだろうか。


『…』


――でも、私は。

――こうして、こいつの体を、自分自身で作り、置換していくことに。

――始めは微かに。今はもうめちゃくちゃに。


――興奮していた。


こいつが無茶をして。自分の体を無くして。私がそれを直して。


――どんどん、こいつを手に入れているのではないか、と錯覚している。

――実際のところは、わからないけれど。


「むにゃぁ…もう食べられないよ…」

『…』


――もし、もしだ。

――もし、こいつの頭が吹っ飛んで。

――私がそれを直したら。


――私は、こいつのすべてを手に入れるのだろうか――?


――わかっている。こんなの、多分錯覚だ。

――頭がなくなれば、そのままこいつが死ぬ可能性の方が高い。


そう、わかってはいるのだ。わかっては。


――でも、考えることをやめられない。


――来てほしいのか、来てほしくないのか。それすらもわからずに。


『…一番わからないのは、私自身だから…』


そんなことを、真夏の夜につぶやくことしかできなかった。



――そして果たせるかな。


――その時は来た。


――自分でも、びっくりするぐらいのスピードで修復をして。


――そしたら、どうなったと思う?



「…いや、何で」


バチバチ…バチッ。


「何で人格入れ替わってんのよ―――――!?」

『なんで、と言われてもなあ…』


――そう、なぜかわからないが。

体を動かすのが、私…つまりサミダレ…になって。


『いやあ、しかし結構できるもんだ、こうかな…』


――それを修理、サポートするのが、なぜかコイツになった。

――どうしてこうなった。


「いや、もうわけわかんないわよいくら何でも…」


『まあ、ええやろええやろ、ここがええんのかー』

「痛い!痛い痛い!わかっててやってるでしょアンタ―!?」


――滅茶苦茶痛く修理してくるのやめてほしい!


『しかし、戦うのへたくそだなあサミダレー』

「いや、むしろあれだけ頑張ったことをほめてほしいぐらいだけど私!?」


――いやまあ、本当に、私よく頑張ったと思うんだけど!


「というかこれどうすんのよ…元に戻れるんでしょうね…?」

『どうだろうなあ、んでもなあ』


――まあ、それはそれとして。


『…これ、結構楽しいな?サミダレを手に入れた気がして』

「んにゃっ」


――結局のところ。

――行きつくところまで行ったら。

――手に入れられてしまったのは、私の方だった。っていうだけのお話。

――納得いかなーい!


「いや、マジで納得いかないんだけど!私があんたを手に入れたかったのに!」

『あ、やっぱりそう言うこと思ってたんだ、何となくだけど』

「うわ、ばれてた!恥ずかしいし今なに口走った!?忘れろ!」

『一生忘れない、クケケケ』

「ウワーッ!最悪よーっ!」



報告書。完全機械化兵における頭部全損の修復時、発生する事態について。


修復した際、融合状態の機械化人格と、体を動かしている人との、入れ替わりが発生。原因は不明。


追伸:入れ替わった側の機械化人格はとてもかわいかったです。


「いやアンタ何書いて、待って!そのまま送らないで!?」

『いや、この状態なら俺を止めるものは何も存在しないぜ!というわけでぽちー』

「ウワーッ!?」


――この文書は、歴史的にも重要な資料として末永く親しまれたそうな。

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