信じて/奉る

――命とか救われちゃったら、まあ。

私のすべてで、返すしかないよね?

――少なくとも、私はそう信じて生きてきました。



「…まあ、別に本来そんなわけないよねーってのもわかってるんですが」

「いきなりどうした、藪から棒…使い方これであってるよな…?に」


廃ビルの一室を勝手に拝借して立ち上げられた(そして今もそこに住んでる)事務所に私の声がこだまする。


「いーんや、何でもないですよーだ、後使い方はあってますよ、えらいです」


――多少昔(20とか10年ぐらい?)は平和だった世界、今はまあ、もう平和ではない世界。


世界に変な超能力を持った人間がちんじゃらちんじゃら、雨後の筍の如く生まれるようになって、それが暴れ出して政府やら何やらがぶっ飛ぶぐらいまでの時間として考えるとまあそれなりの時間だったんじゃないでしょうか。


――そんな世界にあって、私にはそんな便利な力、ないのですな。


ちりりん、ちりりん。備え付けの黒電話(時代が逆行している感溢れてますね…といつも思う)が鳴り響く。


「おっと、仕事の時間ですよ」


そんな私が、こうしてそう言う「揉め事」を仲裁して食い扶持にする仕事ができてるのは。


「はいよ、えーと、押っ取り刀で駆けつければいいんだな、こうであってる?」


――この相方、というか救い主?が一緒にいるからですね。


「そうですよ、合ってます、じゃあ行きますよー」



10年位前、あるところに家やら友達やら両親やらが全部ぶっ飛んだ娘がおりました。


まあ私なんですが。

何やかんやで死にかけてたり困ったりしてました。


それで、色々あってこの相方に助けを求めたんです。


「私を助けてほしい」って。


――普通、まあ助けませんよね?でもこの人助けちゃったんですよ。


求めておいてなんですが、とても心配になります。


――まあそれはそれとして。



「良し、終わり」


――この相方はとっても強いんですよね。この周りに散らばる夥しい数の死体を見てもわかると思いますが。


んでもまあ、どうにもこうにもそれ以外が足りてないので。


「はいはい、じゃあ何時もの如く回収班とか呼びますんで」


「あいよー、いつもすまんね」


――まあ、私に出来ることなんて、これぐらいですしね。


「そのうち貴女一人でもできるようになりますよ、というか毎日その辺教えてるのに何でできないんですか」


「いや、だってやること多すぎるし…」


「そっちが出来なさすぎなんです、やっとこの前九九は覚えたでしょうに」


――だから、こうして私に出来ることを教え込んだりするぐらいは何でもない。

相方が独り立ちしたらまあ私は死ぬだろうが些細なことだ。

元より、私がこうして生きていられること自体が向こうのおかげなのだから、それぐらいは還元してあげないとならない。


「帰ったら次は漢字の読み書きと、依頼人との折衷のやり方とか、色々あるんだからもっと頑張ってくださいね」


――こうして、今日も私は相方を立派にするために頑張るのでした。



――自分よりも、素晴らしいと信じられるものを見つけたら。

俺のすべてを奉ずることに躊躇いこともないだろ?

――そう考えて、俺は今も生きている。



20年位前。家やら友達やら両親やらがぶっ飛んだ女がおりました。


そいつは学もなく、子供で、そんでもって――


――物理的にはとても強い女でした。


まあ、俺のことなんだが。


おれは、それから10年ぐらいひたすら用心棒やら降りかかる火の粉を払ったりしながら食うや食わずのその日暮らしを繰り返していました。


――そして、今から10年ぐらい前、その子供りっぱなものに出会ったのです。


そいつは追われていました。

肉体的には強くもありませんでした。

俺がそんなだったら死んでいたでしょう。


――でも。そいつは。


自分自身に何もないということを知っていました。

何もないとすぐに死ぬだろうということも知っていました。

それを飲み込んで、よく知りもしない女に頭を下げることも知っていました。

そいつは、とても頭がよく、俺の知らないことをたくさん、たくさん知っていました。


――今でもふとした時に思い出したりします。

出会った時の、アイツの恐怖を飲み込みながら、それでも堂々とした態度を。

眼をかっぴらいて、俺を見ながら。


『裏手に2人、上から3人、下からも2人、そこの窓からすぐに動いてもらえれば貴女なら大丈夫』

『断られたら私は死にます、助けてください、お願いします』


――それを見て、俺は思った。


俺は強いし、強かった。

でも、ただ強いだけだった。


――多分、本当に”強い”っていうのは、俺の相方のような奴のことで。

――ああ言う、眩しいものを手伝いたいなと。

――俺はそう、思ったのだ。



「…………ううん………」


――だから俺はこうして、今更と言われつつも勉強をしている。


相方が言うんだから、必要なんだろう。

今はまだわからないけど、それは多分俺が”足りてない”からだ。


――だから、こうして。

もっとできるようになれば、アイツを助けられるんだろう。


アイツのことなら信じられる。

アイツのためなら俺のすべてを奉じられる。


だから。

俺はもっと頑張らないとならない。



「次は世界史、世界情勢に、依頼の取り方に、それからそれから」

「いやいやいやいやいやいや、多すぎじゃない?!」


――彼女らにどのような結末が待っているかはともかく、それにたどり着くにはまだまだかかりそうなのでありましたとさ、まる。

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