窓の外、灰の空、蠢く心

窓の外、私には縁がない世界が見える。

灰の空、青い空しか見えない?私の心は灰色だ。

蠢く心、私の心は――



窓の外。

見えるものは公園。

――私には、縁のない世界だ。


私はこうしてずっと病院で寝て暮らし、そのうち死んでいくのだろう。


――空が青い。

――私にとっては灰色に等しい色だ。


『――今日は日差しが強い一日になりそうで』プツン


――日差しが強かろうがなんだ。私の体には降り注いだりしないものを気にしてなんとする。


――目の前の公園で騒がしく遊ぶ子供たちが目に入る。私もまあ子供だが。


――ああ、うるさい、煩わしい。この前からさらに煩わしくなりだした。


理由はわかっている。一人の子が、たまにこちらを見ているからだ。


――じっと、瞬きもせずにこちらを見続けている、いったい何だというのだ。


ああ、煩わしい、煩わしい。

そんな目で私を見ないでほしい。何なんだ貴様は。

そこの、私と縁のない世界でずっと騒がしく遊んでいればいいものを。


ずっとぎゃいのぎゃいのと友達と叫んで。

その持ってるバットで野球をして。

私にずっとその姿を見せ続けていればよいものを。


――いっそのこと。

――そう、いっそのこと。


――この窓を粉砕して叫んでやろうか。

「なんなんだお前は!うるさいぞこんちくしょうが―!」とかって。


そんな益体もない事を考えて私の心が蠢く。


――私はずっとそちらを見ていた。

――だから。

――私は、彼女が”した”事も、すべてが見えていた。



窓の外、俺には縁がない世界が見える。


灰の空、空はないじゃないかって?

――あの病室の天井、灰の空に見えないかい?


蠢く心、俺の心が――動いていた。



――たまに、視線を感じていた。

――遊んでるときとかに。


――暇なときに、その先を探してみた。


そうしたら、いた。

俺とは全然違う、お人形さんみたいにきれいな美人さんが。


――ずっと、窓の外から、俺たちを見ていた。


――涼しそうな部屋の中で。

――俺たちが汗だくで遊んで、叫んでいるのを。


何だありゃ、嫌みか?

俺たちはこうして外で遊ぶしかないからこうしてるってのに。

何をずっと見てやがるんだか。


――ああ、煩わしい、煩わしい。


気づいてからずっと煩わしかった。

彼女は飽きもせず、ずっとこちらを見ていた。


ああ、煩わしい、煩わしい。

そんな目で俺を見ないでほしい。何なんだアンタ。

そこの、俺と縁のない世界でずっと静かに耽っていればいいものを。


ずっと静かに窓際に佇んで。

その持ってる本を読みながら。

俺にずっとその姿を見せ続けれていればよいものを。


――いっそのこと。

――そう、いっそのこと。


――そう、いっそのこと――


蠢く心を、決めていた。


――彼女はずっとこちらを見ていた。

――だから。

――彼女は、俺が”した”事も、すべてが見えていただろうさ。


――俺がやったことは単純だ。


――バットを持ちあげ。


――ボールをトスして。


――そして。


――それを、撃って窓に叩きつけただけだ。



――そして窓は壊される。



―――ッシャァァアン!!!


――私は、そのすべてを見ていた。


――彼女が、ボールを上に投げ、撃ち。


――白球がこちらに飛んできて。


――私の見ていた窓を粉砕し、ガラスが私に降り注ぎ。


――バァン。ボールは壁に激突、2,3回跳ねまわり、そして止まった。


「――んな」


そして、外から声が響く。


「てめぇ~~~ッ!何ず~~~~~ッと俺のこと見てやがんだボケナスが~~~~~ッ!!!」


――はい?――何ふっざけたことを…!


――心のままに叫び返す。


「いったい何だってんですか~~~ッ!貴女の方がず~~~~っと私のこと見てたんでしょうが~~~~~ッ!」


――もうそこから後は語るまでもない事でしょう。


口げんかの大暴れ。


隔てていた窓はもうない。


――まあ、なんやかんやで、いいところに収まったんですがね。



「ボケナス!遊びに来てやったぞ、喜べ!」


「誰がボケナスですか!というか貴女のお土産、全然私の趣味に合いませんのですが!」


「いいじゃねえかよ~なんだかんだ言って全部しまってあるの知ってんだぞ」


――こうして、隔てていた窓はなくなり。

――灰色の空は晴天なり。

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