窓の外、灰の空、蠢く心
窓の外、私には縁がない世界が見える。
灰の空、青い空しか見えない?私の心は灰色だ。
蠢く心、私の心は――
◆
窓の外。
見えるものは公園。
――私には、縁のない世界だ。
私はこうしてずっと病院で寝て暮らし、そのうち死んでいくのだろう。
――空が青い。
――私にとっては灰色に等しい色だ。
『――今日は日差しが強い一日になりそうで』プツン
――日差しが強かろうがなんだ。私の体には降り注いだりしないものを気にしてなんとする。
――目の前の公園で騒がしく遊ぶ子供たちが目に入る。私もまあ子供だが。
――ああ、うるさい、煩わしい。この前からさらに煩わしくなりだした。
理由はわかっている。一人の子が、たまにこちらを見ているからだ。
――じっと、瞬きもせずにこちらを見続けている、いったい何だというのだ。
ああ、煩わしい、煩わしい。
そんな目で私を見ないでほしい。何なんだ貴様は。
そこの、私と縁のない世界でずっと騒がしく遊んでいればいいものを。
ずっとぎゃいのぎゃいのと友達と叫んで。
その持ってるバットで野球をして。
私にずっとその姿を見せ続けていればよいものを。
――いっそのこと。
――そう、いっそのこと。
――この窓を粉砕して叫んでやろうか。
「なんなんだお前は!うるさいぞこんちくしょうが―!」とかって。
そんな益体もない事を考えて私の心が蠢く。
――私はずっとそちらを見ていた。
――だから。
――私は、彼女が”した”事も、すべてが見えていた。
◆
窓の外、俺には縁がない世界が見える。
灰の空、空はないじゃないかって?
――あの病室の天井、灰の空に見えないかい?
蠢く心、俺の心が――動いていた。
◆
――たまに、視線を感じていた。
――遊んでるときとかに。
――暇なときに、その先を探してみた。
そうしたら、いた。
俺とは全然違う、お人形さんみたいにきれいな美人さんが。
――ずっと、窓の外から、俺たちを見ていた。
――涼しそうな部屋の中で。
――俺たちが汗だくで遊んで、叫んでいるのを。
何だありゃ、嫌みか?
俺たちはこうして外で遊ぶしかないからこうしてるってのに。
何をずっと見てやがるんだか。
――ああ、煩わしい、煩わしい。
気づいてからずっと煩わしかった。
彼女は飽きもせず、ずっとこちらを見ていた。
ああ、煩わしい、煩わしい。
そんな目で俺を見ないでほしい。何なんだアンタ。
そこの、俺と縁のない世界でずっと静かに耽っていればいいものを。
ずっと静かに窓際に佇んで。
その持ってる本を読みながら。
俺にずっとその姿を見せ続けれていればよいものを。
――いっそのこと。
――そう、いっそのこと。
――そう、いっそのこと――
蠢く心を、決めていた。
――彼女はずっとこちらを見ていた。
――だから。
――彼女は、俺が”した”事も、すべてが見えていただろうさ。
――俺がやったことは単純だ。
――バットを持ちあげ。
――ボールをトスして。
――そして。
――それを、撃って窓に叩きつけただけだ。
◆
――そして窓は壊される。
◆
―――ッシャァァアン!!!
――私は、そのすべてを見ていた。
――彼女が、ボールを上に投げ、撃ち。
――白球がこちらに飛んできて。
――私の見ていた窓を粉砕し、ガラスが私に降り注ぎ。
――バァン。ボールは壁に激突、2,3回跳ねまわり、そして止まった。
「――んな」
そして、外から声が響く。
「てめぇ~~~ッ!何ず~~~~~ッと俺のこと見てやがんだボケナスが~~~~~ッ!!!」
――はい?――何ふっざけたことを…!
――心のままに叫び返す。
「いったい何だってんですか~~~ッ!貴女の方がず~~~~っと私のこと見てたんでしょうが~~~~~ッ!」
――もうそこから後は語るまでもない事でしょう。
口げんかの大暴れ。
隔てていた窓はもうない。
――まあ、なんやかんやで、いいところに収まったんですがね。
◆
「ボケナス!遊びに来てやったぞ、喜べ!」
「誰がボケナスですか!というか貴女のお土産、全然私の趣味に合いませんのですが!」
「いいじゃねえかよ~なんだかんだ言って全部しまってあるの知ってんだぞ」
――こうして、隔てていた窓はなくなり。
――灰色の空は晴天なり。
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