鉄、炉、刀、使う人
私が作り、貴女が使う。
そう私たちは約束した。
――未だ、約束は果たせていない。
◆
がらら。扉を引かれる音。
飛び込んでくる鉄錆の――いや、血の匂い。
「ただいまー」
ぽいっと捨てられる、私の打った刀。へし折れている。
「…また、ダメだったの」
私は落胆する。今までよりはうまくできたのだ。
「13人目で折れた、新記録だ」
どっか、返り血も拭かずに椅子に座る。
「…………………」
私は落ち込む。どうして上手くいかないのか、何が足りないのか――
「だぁいじょぶだって、お前ならきっとアタシが使っても折れずに使い続けられる刀、作れるって」
――向こうはそう能天気に言うが、正直もう手詰まりだ。
「………………………バカ」
――本当にバカだと思っている。私なんか信じてどうするのだ。
こんなにも愚図で、馬鹿で、何も成せない私なんかを。
◆
「………………………………………………………………………………………」
暗い鍛冶場にじっと座り込む。
――静かだ。
――思索にふける、いや…自分の思考から逃げないようにするにはいい。
人を切り、自由におおらかに動ける貴女とは違って。
私は、こうでもしないとすぐに逃げてしまうような弱い人間だから。
「…………………………………………………………………………………………………………うん…」
こうして。
最後の手段を使うのに、心を定めないとならないぐらい弱い人間だから。
◆
「次、打つ刀が私の最後の刀になるから」
「?なんでそりゃまた…?」
「なるの」
「…なるのか」
「うん」
「…見てていいか?最後の仕事」
「ダメ」
「ケチ」
「…貴女には見られたくない、から」
◆
――端に撃ち捨てられていた、今までの失敗作全部。
――それを炉を壊すほどの火でもって溶かし液状にする。
そして。
◆
『明日の朝、ここに来て』と言われたのでやってきた。
今までは何があっても手渡ししてきたのに。
がらら。扉を開ける。
「おーい来たぞー…」
――果たして、机の上には一振りの――
『ああ、来たのね』
――刀から声がした。
「えっ」
聞き間違えるはずもない。
『ご注文の品よ』
――アイツの声だ。
「………お前何やった!?!?!??!吐け!!!」
『妖刀を作るのに必要なもの、何かわかる?』
アイツはそんなことをいきなり言い出した。
「いや、今そんなことを聞いてるんじゃ…!」
『十分すぎるほどの怨念、妬み、嫉み、それを蓄えた鉄。そして』
『それを制御できるほどの、憎悪を持った人間の魂』
「――」
ひゅっ、と呼吸が詰まったのがわかった。
『というわけで、約束は果たしたわ。折れず、曲がらず、いつまでも切れる刀』
『多分大丈夫だと思うけれど、失敗してたらごめんなさいね、もう私は変わりを打てないから』
「…そっ…っっっ…!」
――そんなことを言いたいんじゃない?
――そんなことを聞いてるんじゃない?
――そう言う問題ではない?
結局、私は何を言えばいいのかわからないうめき声だけを上げて。
「………一生使ってやるから、覚悟しやがれ」
――その妖刀を腰に下げた。
「…お前、本当にバカだよ、バカ」
『知ってるわよ』
――そうじゃねえよ、バカ。
――いつだって、一本気で、意地っ張りで、頑固で突っ走って。
――最後にはやり遂げちまう、お前が。
――アタシには、いつだって眩しかった。
…こうなるなら無茶ぶりしなければよかったかなあ?
でも、これはこれで悪くない気もして。
「…………はあ」
ただ、生きてるものとしてため息をすることしかできなかった。
◆
「…ねえ、アタシは木を切ろうとしたんだよ」
『そのようね』
「大木が切れたんだよ、それはいいんだよ」
『そうね』
「後ろの岩どころか、山が切れてるんだけど、どう思います?」
『私にしては上出来ね』
「違う!!!そうじゃない!!!」
――こうして。世に語られ続ける剣豪とその刀の伝説が生まれたのですが、それはまた別のお話。
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