鉄、炉、刀、使う人

私が作り、貴女が使う。

そう私たちは約束した。

――未だ、約束は果たせていない。



がらら。扉を引かれる音。

飛び込んでくる鉄錆の――いや、血の匂い。


「ただいまー」


ぽいっと捨てられる、私の打った刀。へし折れている。


「…また、ダメだったの」

私は落胆する。今までよりはうまくできたのだ。


「13人目で折れた、新記録だ」

どっか、返り血も拭かずに椅子に座る。


「…………………」

私は落ち込む。どうして上手くいかないのか、何が足りないのか――


「だぁいじょぶだって、お前ならきっとアタシが使っても折れずに使い続けられる刀、作れるって」


――向こうはそう能天気に言うが、正直もう手詰まりだ。


「………………………バカ」


――本当にバカだと思っている。私なんか信じてどうするのだ。

こんなにも愚図で、馬鹿で、何も成せない私なんかを。



「………………………………………………………………………………………」


暗い鍛冶場にじっと座り込む。

――静かだ。

――思索にふける、いや…自分の思考から逃げないようにするにはいい。


人を切り、自由におおらかに動ける貴女とは違って。

私は、こうでもしないとすぐに逃げてしまうような弱い人間だから。


「…………………………………………………………………………………………………………うん…」


こうして。

最後の手段を使うのに、心を定めないとならないぐらい弱い人間だから。



「次、打つ刀が私の最後の刀になるから」


「?なんでそりゃまた…?」


「なるの」


「…なるのか」


「うん」


「…見てていいか?最後の仕事」


「ダメ」


「ケチ」


「…貴女には見られたくない、から」



――端に撃ち捨てられていた、今までの失敗作全部。


――それを炉を壊すほどの火でもって溶かし液状にする。


そして。



『明日の朝、ここに来て』と言われたのでやってきた。


今までは何があっても手渡ししてきたのに。


がらら。扉を開ける。


「おーい来たぞー…」


――果たして、机の上には一振りの――


『ああ、来たのね』


――刀から声がした。


「えっ」


聞き間違えるはずもない。


『ご注文の品よ』


――アイツの声だ。


「………お前何やった!?!?!??!吐け!!!」


『妖刀を作るのに必要なもの、何かわかる?』


アイツはそんなことをいきなり言い出した。


「いや、今そんなことを聞いてるんじゃ…!」


『十分すぎるほどの怨念、妬み、嫉み、それを蓄えた鉄。そして』


『それを制御できるほどの、憎悪を持った人間の魂』


「――」

ひゅっ、と呼吸が詰まったのがわかった。


『というわけで、約束は果たしたわ。折れず、曲がらず、いつまでも切れる刀』


『多分大丈夫だと思うけれど、失敗してたらごめんなさいね、もう私は変わりを打てないから』


「…そっ…っっっ…!」


――そんなことを言いたいんじゃない?

――そんなことを聞いてるんじゃない?

――そう言う問題ではない?


結局、私は何を言えばいいのかわからないうめき声だけを上げて。


「………一生使ってやるから、覚悟しやがれ」


――その妖刀を腰に下げた。


「…お前、本当にバカだよ、バカ」

『知ってるわよ』


――そうじゃねえよ、バカ。


――いつだって、一本気で、意地っ張りで、頑固で突っ走って。

――最後にはやり遂げちまう、お前が。

――アタシには、いつだって眩しかった。


…こうなるなら無茶ぶりしなければよかったかなあ?

でも、これはこれで悪くない気もして。


「…………はあ」


ただ、生きてるものとしてため息をすることしかできなかった。



「…ねえ、アタシは木を切ろうとしたんだよ」


『そのようね』


「大木が切れたんだよ、それはいいんだよ」


『そうね』


「後ろの岩どころか、山が切れてるんだけど、どう思います?」


『私にしては上出来ね』


「違う!!!そうじゃない!!!」


――こうして。世に語られ続ける剣豪とその刀の伝説が生まれたのですが、それはまた別のお話。

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