時よ止まれ、あるいは進め。
カッチャン。カッチャン。
ジーコ、ジーコ。
カッチャン。カッチャン。
今日も工具の音が鳴る。
◆
「うぅん…そこ…そこ、そこの歯車が調子悪くてさー」
カチン。カチン。キュインキュイン。
「あーハイハイ、やたらと動かないったら、後色っぽい声も上げない」
グッ、ギュッ。
「グエーッ、そんなに強く締めないでぇ…」
ギュ~~~~~ッ!!!
「ぎえーっ!?痛い!痛い!いっっったい!」
「ここ強く締めないと、後で困るのアンタなんだからね!また私にメンテしてもらうの面倒でしょーが!」
ガリガリガリガリ!
「オゴゴーッ!」
「後はこっちと―…あっ、ここ錆びてる」
ガチン。
「エッちょっと待って、錆びてるところ外されるの痛いんだけど、心の準備を」
ガッ、ギッ…ギギギギギギ………
「ガアアアアア!!まっ、」
「うご…くなって…」
ギギギギギギィィ…
「言ってんでしょーが!」
ガゴン!ガガガガガガ…!ガリガリガリガリ…
「ホギュアーッ!」
◆
カッチャン。カッチャン。
ジーコ、ジーコ。
カッチャン。カッチャン。
今日も工具の音が鳴る。
◆
「…何をどうやったら、右手を落としてこられるのかしらアンタは!?」
チュイィィン…カラン、カラン。
「いやあちょっとミスって…へへへ」
チュイィン、カラン。チュイィン、カラン。
「肩から外すわよ、完全に付け替えるからね!ちょっと左手の方で持ってて!」
カラン。カランカラン。
「はいはい、お安い御用で…おっと、全部ネジ捕れたかな?」
「はいじゃあ、外して、アタシがやるよりアンタがやる方がよくわかるでしょ、自分の体なんだから」
「はいよー」
ズッ、ズボン。ガラガラ。
「へへ、なんかこのスポンって感じ結構好き」
ガサゴソガサゴソ。
「んなこと言ってんじゃないわよ、エート、アンタの規格に合った腕は…」
ズルリ。
「……ドリルつき右手…?アッ、これアンタまた変なもの買ってしまいこんでたでしょ!?」
「いや、ドリルカッコイイじゃん…へへへ」
「…アンタの右手それでいいの本当に!?」
「内蔵型にしてちょ☆」
「…内臓にするのアタシで、しかも面倒なんだけどーッ!バカ―ッ!」
◆
カッチャン。カッチャン。
ジーコ、ジーコ。
カッチャン。カッチャン。
今日も工具の音が鳴る。
◆
カッチャン。カッチャン。
「…ねえ」
ジーコ、ジーコ。
「んー?」
カッチャン。カッチャン。
「…アタシは、いつまであんたの体を直してあげられるんだろうね」
ジーコ、ジーコ。
「私はいつまでも直してもらいたいけどなあ」
カッチャン。カッチャン。
「アタシだってそうよ、でも…」
ジーコ、ジーコ。
「アタシは生身で、アンタは…機械で」
カッチャン。カッチャン。
「アタシがおばあちゃんになって、年を取って…」
ジーコ、ジーコ。
「…死んじゃったら、アンタの体、直して、あげられないし」
カッチャン。カッチャン。
カッチャン。カッチャン。
ジーコ、ジーコ。
カッチャン。カッチャン。
カッチャン。カッチャン。
ジーコ、ジーコ。
「…ねえ」
カッチャン。カッチャン。
「んー?」
ジーコ。ガシッ。
「…今、アタシがつかんでるところ、わかる?」
「もちろん、私の心臓部、所謂”だいじなところ”だね」
「…もし、もしさ、アタシがここをさ…」
「死ぬねえ、つぶしたら、私」
「…………」
「私は、いいよ?それでも」
「……………でも、それもいや、なのよね、アタシ」
「…とか言ってみる?」
「え?」
「時よ止まれ、とか」
「…それで、本当に止まってくれたらいいのに」
「でもさ、もしかしたら…もうちょい未来には、生身を機械にできるかもしれないし」
「なんか不思議な化学で寿命とか考えなくてもよくなるかもしれないじゃん」
「…アンタは、呑気すぎんのよ」
「でもいいじゃん、私はこれでいいと思うし」
カチャン。
「あっちょっ、アタシがつかんでるのに動かないの…!」
「貴女がいなくなるなら、その時には私を、殺してほしいなって」
「ッ…」
「だからさ、もうちょっと待ってみようよ、時が止まらないなら、逆に進んでみようよ」
「…………ああ、もう、全くもう」
カッチャン。カッチャン。
ジーコ、ジーコ。
◆
カッチャン。カッチャン。
ジーコ、ジーコ。
カッチャン。カッチャン。
今日も工具の音が鳴る。
◆
ギッ、ギギギギギギ…
「…昔さ、アンタも言ってたけど…本当に、錆びてる部品外されるのって痛いわね…!」
「へへーん、正しかったでしょ、よいしょーっ!」
ガゴン!
「ッッッ~~~~~ッ!」
ゴトン。
「よっし、どう、どう?私のメンテ!」
「0点ッッッ!!!」
◆
カッチャン。カッチャン。
ジーコ、ジーコ。
カッチャン。カッチャン。
今日も工具の音が鳴る。
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