力の獣、技の糸
――だなんていうけれど。
糸側だって別に力が必要ない、なんてわけじゃないんだよなあ!
◆
風切羽中学校を舞台としたエージェント361とその敵対組織のエージェント465の決戦は最終局面へと入っていた!
――361が学校中を回って仕掛けた糸、そのすべてを465へと結びつけることに成功したが!
「こ、のてい、どで…わ、たしを――止められる、とでもおおおお…!」ブチン。ブチブチ、ギチギチ…!
「がっ、ぎぎぎ…なんて馬鹿力だよいつも君は…!」ギリギリギリギリ…!
――見ての通り!465は糸で全身拘束、引っ張られつつも一歩、一歩と361に迫りつつあった!
「ほんっっとに馬鹿みたいな力…!僕はっ…!こう、いう…!物理っ…、的な!」
ギッ、ギッ、ギギギ…361の両手指すべてにつけられたリングが異音を立てつづける!
「が、ああ、あああああああああ…!」ギチッ、ギチチチ……!
「力、比べとか…!好きじゃ、ないんだよ…!」
――どうする?361は脳内でシミュレートを続ける!
――このまま力比べを続ける、現状負けている以上このままでは押し切られる。却下。
――一旦この拘束を解除、いやダメだ、ここまで近いとその一瞬でやられる。却下。
――力比べ状態で何かしら他の手を打つ、これだ。
――でも、何をしろと言うのだ。そこが全然思いつかない。
「ま、け、る、か、ああああ…!」バキッ、バキバキッ。
465が全身に纏っていた強化用スーツが糸により破砕される。
ここで決めるつもりならスーツがある必要はないという判断だ!
(どうする…どうする僕、もう、奴が目の前に――)
カラン、カランカラン。顔を隠していたスーツが剥がれる。
――465の、”彼女”の必死の形相が目に映る。
「――あ」
――361本人が”その行動”を自覚したのは、すべて終わった後だった。
端的に言うなら。
拘束を続けながら、動く個所――頭を動かし。
361は目の前の465に顔を近づけ、唇と唇を合わせた。
つまりキスした。ついでに舌も入れた。
「――へ」
ぽかん。とした465の間抜けな表情が写る。
一瞬力が抜ける。
「――え、ええ――?」
361も混乱していた。した側であるのに。
361の精神は混乱していても肉体はその隙を逃さなかった。
バキャン!強化スーツをすべて粉みじんと化し、そのまま糸での拘束を完成せしめたのだ。
「――あ……しまった――――!?」
「――――」
――こうして、長きにわたる361と465の決戦は361の勝利で決着がついたのであった。
(――まあ、自分でもよくわからないけど、もう二度と会うこともないだろうから、気にしなくていいよね、うん)
――この時の361――つまり僕だ――は、こう思っていられたのだが。
◆
「というわけで465の監視役として361君を抜擢しようと思うのだが」
「「「異議なーし」」」
「大アリですよ!?!?!?!?!?!」
僕の提案は却下された。
◆
「…………よ、よぉ」
「…………う、うん」
「…………」「…………」
「…………」「…………」
「…………」「…………」
「「……いや、何か喋れよ!!!」」
とまあ。361君の受難はまだ始まったばかりである。
がんばれ、まけるな、未来はきっと明るいぞ。
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