元・相棒と私
私が後ろ。後ろから撃つ。
アイツが前。前に行っては切り刻む。
私たちは最強のコンビだった。
…”だった”。
◆
「…やっと、見つけたよ、前司」
私は、そうアイツに呼びかける。
瓦礫の山の上に立つアイツに。
「…その名前は女の子らしくないから呼ばないでほしいなあ、後子」
憮然とした顔で前司は答える。
もちろんそんなことは知っている。ただの嫌がらせだ。
――私を裏切った元・相棒への。
「それで、理由ぐらいは、教えてもらえると嬉しいんだけど」
腰から二丁の拳銃を持ち出す。
いつもはスナイパーライフルを使っていたが、前がいないんじゃそうもいかない。
長物は全部置いてきた、あるのは取り回しの良い銃器ばっかりだ。
――銃器以外もたくさんあるけど。
「まあ、僕としても教えてあげても…いいといえばいいんだけど」
対する前司は、一本の刀を抜く。
たくさんの、たくさんのものを使う私とは違う。
――いつもいつも、アイツはあの一振りの刀だけですべてを切り裂いてきた。
――私なんかとは物が違う。
「戦いが終わって、君が生きてたら聞けるんじゃないの、と言っておいた方がいいかな?」
いつも通りの軽口、本当にきざな奴だ。どうにもやる気らしい。
「抜かしなさい、一人で私が戦えないと思ってんの?」
確認。
拳銃が二と十。
手榴弾五、フラッシュバン五。
チャフグレネードはない。意味がないからだ。
遠隔砲撃要請用無線、感度良好。
既にこの位置に敷き詰めてある(この場所は幾つもある候補の一つだった。)クレイモア起爆用リモコン、動作問題なし。
強化外骨格のブースター、出力安定。
右手の義手に仕込んである重力波発生装置。
技術部から最新鋭の試作品をかっぱらってきた。動くかは知らない。
左手側、超高出力レーザー発生装置。
こちらは試作品未満だ。テストすらしていない。
これを使う機会が来ないといいけど、たぶん来る。
右足、左足。高速戦闘軌道専用反重力発生装置。
これもまた試作品。行けるかどうかは試してみないとわからない。
でもこれぐらい無いとアイツには追いつけない。
それとは別に物理反動発生装置。平たく言えばスプリングみたいなものだ。
こういう時には物理が一番だ。足が折れるとか言われたけど、何とかする。
両方の靴、高熱溶断ナイフ、しっかり動く。
――腰につけた、アイツにプレゼントしてもらった短刀。
むやみやたらと良いものだ。アイツは刀の目利きが滅茶苦茶上手い。
――髪を止める簪、これもアイツに選んでもらった。
やたらセンスがあるのが腹立たしい。もちろん武器にもなる。
よし、全部ある。
これで、勝ち目はおおよそ二割弱。
これでもかなり甘めに見積もっている。
「…行くよ、前司」
「うん、来て、後子」
それでも、私は、行くと決めたのだ。
この相棒を、殺すと決めたのだ。
そして私は、戦場へと飛び込んだ。
◆
雨の音が聞こえる。いつの間にか降りだしていたらしい。
「…さすが、後子はここぞってときには本当に強いんだから…」
「こんな時でも軽口はやめないんだから筋金入りね、ホント」
短刀を突き付けている右手の排熱に丁度いい冷たさだ。
私の四肢はそこ以外は最早ないが。重力波ももちろん出せやしないが。
後はこれを振るだけですべて終わるから問題ない。
「…それで、何で私を裏切ったのか、答えて」
排熱が終わるまで10秒弱。終わるまで右手は動かないか…
その間の、最期の質問ぐらいは許されるだろう。
残り8秒。
「んー…そうだねえ、ゲホッ」
7,6。
「あー、まあ簡単に言うとね、ゲボッ…」
…5、4、3――
…おかしい、こんなに血を吐くようなダメージは通っていないはず…
「僕、不治の病ってやつでさ、グッ…」
――2,1。
「…殺してもらうなら、君に、殺してもらいたかったのさ僕は」
「ありがとね、感謝してる」
0。
◆
「…ねえ、この仕打ちはあんまりじゃないかな後子」
「うっさいバカ黙れ死ね、いや死ぬな」
「僕は殺してって頼んだんだけど」
「うっっっさい、絶対に死なせてなんてやらないから、一生私のそばにいさせてやるんだから」
「…ははは、後子らしいよ、本当に眩しいなあ」
「さて、技術部にカチコンでサイボーグの技術を分捕ってこよう」
「ヘイ、後子ストップストップ。」
「うっさい、機械の体になるぐらいへでもないでしょ、私もこの機会に全身しようかしら」
「そうでなく、そうでなくね?カチコム前に普通にね?」
「ああ、普通に情報収集からってことね」
「ヘイ、後子。そうじゃなくてね?」
◆
「めでたし、めでたし…」
「それがロボのおばあちゃんたちの馴れ初めなのー?」
「そうよ、後ロボじゃなくサイボーグね」
「そこはあまり問題じゃないんじゃないかな、いいけど」
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