"本物"と"偽物"

――本物が手に入らないなら、偽物でもいいから作ればいい。

少なくとも私はそう思った。

でも。私が作ったものは――



ゴボボ…ゴボボボボ…培養菅が音を立てる。


「ヒ、ヒヒヒ…できた…」


気づかれずにあの人から取った銀の髪一房。

それを培養して――


「さあ…起きて!そして私に愛の言葉を!」


――あの人の"偽物"クローンを作った。

機械は正常に稼働して、すべての工程を終えた。


――でも。


「…クッソ小汚いでございますね、ミジンコからやり直した方がよろしいのでは?」


――出来たものは、あの人とは似ても似つかぬものだった。



「とまあ私は今でも傷心なのであったのでござるの巻なのじゃよ」

そんなことを虚空に向かってつぶやいた。


「誰に向かって言ってんですかこのくそボケ博士」

即辛辣なツッコミが返ってきた。


――見てのとおり、作ってしまったものは仕方がないのでとりあえず一緒に住んでいるわけなのだが。


「大体において博士はだらしがなさすぎるんですよ、毎度毎度ゴミ出しの日にご近所から「ウワッ何この量、かわいそうに、片付けられない女なのね…」みたいな視線向けられる私の気持ち考えてくださいよ」

「う、うるさいやーい…」


――まあ、とにかく本当に口が悪い。性格も意地が悪い。

本物とは似ても似つかない偽物だ。


それでもやっぱり顔がいいので(クローン捨てるのも倫理的にあれだし)一緒にいるわけだが。


「…ハァ、失敗したなあ」

「貴女の人生がですか?」

「辛辣ぅー!」


まあつまりずっと一緒にいるわけですよ。


「あーもー何度言っても聞きゃあしないんだからこの小汚い博士は」

「小汚いとか言わないでほしいんだけど!」

「じゃあ思い人のクローン造った気持ち悪い博士」

「もっとひどくなった!」

「…ちゃんとすればきれいなのに」

「?何か言ったかい?」

「何も」

ぶっちゃけ思い人よりずっと一緒にいるんですよ。


「はい、片付きましたよ」

「いや何で私こんな黒服たちに狙われてるの!?しかも何で撃退してるの君!?」

「前者は「クローン造ったのがばれたら当然こうなるだろボケ」、後者は「しっかり鍛錬を積んでいたから」ですね博士」

「辛辣!でもとても納得の理由!」(でも何で鍛錬なんて積んでたんだろう?)

そしてまあ今は私、ベッドの上で首絞められてるわけですよ。


「………………あー、この手を放してくれると」「ダメです」

ぎちぎち…あいたたた、首締まる。


「ぐええ…んで、なんでこんなこ」「わかってるくせに、そう聞くんですね」

…まあ、予想してなかったわけじゃないけど。


「……………私じゃ、ダメですか、博士…」

「…………………………んー…」


…正直に言って。

もうほだされてるって言っていいんだよね、私。


「………………………名前、付けようか」

「名前?」

「うん、”偽物”じゃなくて――」


まあ、つまり。

私が作ったものは、"偽物"じゃなくて"別の本物"だった。っていうオチだったのさ。



「というわけでさっさと片付けてくださいこのすっとこどっこい博士」

「辛辣度が変わっていない!もっとやさしくせい!」

「十分にしてますが、何か?」

「これで!?」


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