永劫の約束

――私は彼女と約束をした。

必ず殺してあげると。

私は、約束を果たすまでは死ななくなった。

これが、悲劇の始まり。

――あるいは――



私は侍だった。…女性であることを隠して、であるが


――自分で言うのもまあなんだが私は強かった。

強すぎて家の長男が無視できないぐらいに。


なのでまあ面倒なことになる前に…いやなったのだが、まあとにかく私は旅に出た。


「さて、今日はどっちへ行くか」


――こうやって旅に出て、そのうちどこかでのたれ死ぬのだろうと、私は思っていた。

――のだが。



「――わたくしを、殺していただけませんか?」


――旅の途中で、神に会った。

厳密にいうと退治してくれと言われたのだが。

しかも本人に。

死にたくても自動で反撃してしまうらしい。


ちょこんと座った小さな体。

それに反比例するように長く、白い髪。

ぱっちりと開かれた、紅い瞳。


――目の覚めるほど、美しかった。

”これ”を、他の人に渡してなるものかと欲望が蠢きだした。

一も二もなく頷いた。


――だが、私は殺せなかった。

私は強かったけれど、しょせん人の中での強さだった。


「ガハッ、ブッ…ハァーッ…」

「…ダメなのね…」


私は自分が弱いことを生まれて初めて悔いた。

期待を裏切ったことが許せなかった。

この子に、そんな顔をさせてしまう、自分自身が許せなかった。

――この子を殺して永遠に自分の物にできない、自分自身が。


――だから、約束をした。


「約束よ」


いつか絶対に殺すと。

――その時まで、私は死なないと。

――この子を殺せるまで、私は永遠の時を生きるのだと。



…今思えば。

私は完全に手のひらの上だったな。

絶対分かっていてやったに違いない。

あの子は見た目に反して腹黒だ。



…それから。

私は修行をして、殺しに行く。

そのサイクルを延々と繰り返した。


通らなかった刃が通るようになった。

一つ、年号が変わった。

攻撃を回避できるようになった。

また、年号が変わった。

気配の察知ができるように。

さらに年号が変わる。

速度が上がり。

変わる。

切る。

変わる。

切る。

変わる。


――それでも、あの子は死ななかった。

今や神の数自体少なくなった。

文明が栄え、総じて神を信じる人が減ったから。


街並みも随分と変わった。

”ビルディング”とやらがたくさんある。


「うーん、おかしいわねえ?」にこにこ

「おかしいよ絶対、これだけ切っても切っても死なないのは」

「なんでかしらねえ、わからないわ」にっこにこ

「なんで笑ってるのさ…傷跡も治り切ってないのに」

「…ふふふ、ひみつ」にっこり

「ん”ん”っ」



答えは、あっさり出た。というか教えてもらえた。

通りすがりの祟り神…いや、祟り神”たち”に。


「クカカカカカ!バカじゃのうお主、そりゃあ当たり前じゃ」

「な、何がですか」

『今の私たちを見てわかりませんかー?』

「というかそもそも人と神が合体してるのなんて初めて見たんで…」

「不勉強じゃのう、まあつまりじゃな」


『「

「……………は?」


「それをわかっててやったのならその神は相当意地が悪い!クカカカカカ!」

『私の時も大体似たようなもんじゃなかったですかねー神様ー』

「儂はお前の許可とったもーん」

『そうですねーえへへー』


…祟り神たちのいちゃつきも耳に入らなかった。



「…どういうことだ」

「…ああ、知っちゃった?」


胸倉をつかむ。今までこんなことはしたことなかった。


「…死にたいんじゃ、なかったのか」

涙が出た。

「…私のやってきたことは…すべて無駄だったのか…?」


「…そうじゃないよ」

涙を舐められた。


「私がね、死にたかったのは本当」


ぎゅっと抱きしめられる。


「でもね、貴女を見てね」

「自分でもよくわからない感情が出たの」


頭を撫でられる。


「愛でたいのか」

「壊したいのか」

「穢したいのか」


――ああ、つまり

――君を見た時の、私と同じだったのか。


「…だから試してみたの」

「貴女がいなくなって消えるならそれはそれでよかった」

「でも、貴女はずっと私の約束を守ろうとした」


「だから、いいの」

「貴女と一緒なら、永劫に生きるのも」


――涙が、あふれて止まらなくなった

二人とも。


――そうして、私たちはお互いに縋りついて泣きはらした。



「…それじゃあ、死ぬ必要もなくなったことだし街にでも出ましょうか」

「今はもうずいぶんと世の中が様変わりしてるぞ、色々あって面白い」

「いいわね!未知の物見るの大好きよ!」


――こうして、約束は永劫に果たされることなく。

――しかして、永遠に彼女たちを繋ぐ絆となったのでした。

――めでたし、めでたし。






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