永劫の約束
――私は彼女と約束をした。
必ず殺してあげると。
私は、約束を果たすまでは死ななくなった。
これが、悲劇の始まり。
――あるいは――
◆
私は侍だった。…女性であることを隠して、であるが
――自分で言うのもまあなんだが私は強かった。
強すぎて家の長男が無視できないぐらいに。
なのでまあ面倒なことになる前に…いやなったのだが、まあとにかく私は旅に出た。
「さて、今日はどっちへ行くか」
――こうやって旅に出て、そのうちどこかでのたれ死ぬのだろうと、私は思っていた。
――のだが。
◆
「――わたくしを、殺していただけませんか?」
――旅の途中で、神に会った。
厳密にいうと退治してくれと言われたのだが。
しかも本人に。
死にたくても自動で反撃してしまうらしい。
ちょこんと座った小さな体。
それに反比例するように長く、白い髪。
ぱっちりと開かれた、紅い瞳。
――目の覚めるほど、美しかった。
”これ”を、他の人に渡してなるものかと欲望が蠢きだした。
一も二もなく頷いた。
――だが、私は殺せなかった。
私は強かったけれど、しょせん人の中での強さだった。
「ガハッ、ブッ…ハァーッ…」
「…ダメなのね…」
私は自分が弱いことを生まれて初めて悔いた。
期待を裏切ったことが許せなかった。
この子に、そんな顔をさせてしまう、自分自身が許せなかった。
――この子を殺して永遠に自分の物にできない、自分自身が。
――だから、約束をした。
「約束よ」
いつか絶対に殺すと。
――その時まで、私は死なないと。
――この子を殺せるまで、私は永遠の時を生きるのだと。
◆
…今思えば。
私は完全に手のひらの上だったな。
絶対分かっていてやったに違いない。
あの子は見た目に反して腹黒だ。
◆
…それから。
私は修行をして、殺しに行く。
そのサイクルを延々と繰り返した。
通らなかった刃が通るようになった。
一つ、年号が変わった。
攻撃を回避できるようになった。
また、年号が変わった。
気配の察知ができるように。
さらに年号が変わる。
速度が上がり。
変わる。
切る。
変わる。
切る。
変わる。
――それでも、あの子は死ななかった。
今や神の数自体少なくなった。
文明が栄え、総じて神を信じる人が減ったから。
街並みも随分と変わった。
”ビルディング”とやらがたくさんある。
「うーん、おかしいわねえ?」にこにこ
「おかしいよ絶対、これだけ切っても切っても死なないのは」
「なんでかしらねえ、わからないわ」にっこにこ
「なんで笑ってるのさ…傷跡も治り切ってないのに」
「…ふふふ、ひみつ」にっこり
「ん”ん”っ」
◆
答えは、あっさり出た。というか教えてもらえた。
通りすがりの祟り神…いや、祟り神”たち”に。
「クカカカカカ!バカじゃのうお主、そりゃあ当たり前じゃ」
「な、何がですか」
『今の私たちを見てわかりませんかー?』
「というかそもそも人と神が合体してるのなんて初めて見たんで…」
「不勉強じゃのう、まあつまりじゃな」
『「神は誰か一人にでも強く信仰されていれば絶対に消えないのじゃ」です』
「……………は?」
「それをわかっててやったのならその神は相当意地が悪い!クカカカカカ!」
『私の時も大体似たようなもんじゃなかったですかねー神様ー』
「儂はお前の許可とったもーん」
『そうですねーえへへー』
…祟り神たちのいちゃつきも耳に入らなかった。
◆
「…どういうことだ」
「…ああ、知っちゃった?」
胸倉をつかむ。今までこんなことはしたことなかった。
「…死にたいんじゃ、なかったのか」
涙が出た。
「…私のやってきたことは…すべて無駄だったのか…?」
「…そうじゃないよ」
涙を舐められた。
「私がね、死にたかったのは本当」
ぎゅっと抱きしめられる。
「でもね、貴女を見てね」
「自分でもよくわからない感情が出たの」
頭を撫でられる。
「愛でたいのか」
「壊したいのか」
「穢したいのか」
――ああ、つまり
――君を見た時の、私と同じだったのか。
「…だから試してみたの」
「貴女がいなくなって消えるならそれはそれでよかった」
「でも、貴女はずっと私の約束を守ろうとした」
「だから、いいの」
「貴女と一緒なら、永劫に生きるのも」
――涙が、あふれて止まらなくなった
二人とも。
――そうして、私たちはお互いに縋りついて泣きはらした。
◆
「…それじゃあ、死ぬ必要もなくなったことだし街にでも出ましょうか」
「今はもうずいぶんと世の中が様変わりしてるぞ、色々あって面白い」
「いいわね!未知の物見るの大好きよ!」
――こうして、約束は永劫に果たされることなく。
――しかして、永遠に彼女たちを繋ぐ絆となったのでした。
――めでたし、めでたし。
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