鏡合わせの

私”たち”は作られた。

――私は、望まれたとおりに生きるなんて、まっぴらだった。

私は逃げた。

あの子は来なかった。

来ないのなら、それでもよかったんだけどね。



切った。切った。たくさん切った。


「ああもう嫌になるね…」


結局のところ、逃げ出しても背中に背負った”鋏の右側こいつ”からは逃げられてないのが悲しいところだ。


――私たちは作られ、それぞれ右と左を渡された。

そしてこうも言われた、殺し合え。

――右と左、両方を手にしろと。


私は嫌だった。あの子を殺してまでほしいものでもなかったし、むしろ疎んでさえいた。


――多分、あの子はそうではなかった。

私が逃げるときに、すごい形相で見ていたもの。


――まあ、だから。


「アール!お客さんだよ!」

「お客ゥ?」

「そうそう!あんたの持ってるそれとそっくりの持ってる女の子!」

「…あちゃあ、おばちゃん、悪いけど部屋引き払うから」


――いつか、この日が来ることを、たぶん私はわかっていたのだろう。



――できうる限り、へらへらとした顔をして待ち合わせ場所に行く。


果たして、近所の神社に”彼女”はいた。


腰まで伸びた綺麗な黒髪。/短く切って、しかも死にかけて総白髪になった私とは違う。


すらりと伸びた手と足、豊満な体。/栄養が足りなくて伸びきらなかった私とは違う。胸も差がでかい。


服装はいわゆるセーラー服ってやつ。/目茶目茶ボロ布纏った私とは比べ物にならんねえ。


そしてその鋭利で冷たい瞳が私を見る。/私へらへら笑ってるしまあ全然違うんじゃないかなあ。


随分とまあ綺麗になっちゃって。昔からか。/私は全然だなあ。


とりあえず私から話しかけるのが筋だろう。

「ヤッホー、エル。髪切った?」


「貴女がいなくなってから一度も切ってないわよ、アール」

目茶目茶ガチトーンで返された。


「相変わらず真面目だなあエルは」

やたらとオーバーに肩をすくめて見るが、まあ向こうは気に食わないみたい。


「…研究所はつぶしたわ」

「およ、それは意外。てっきり博士どもから言われてきたんだと思ったのに」

「それとは関係ないわ、これは私の意思」


エルの背負っていた鋏の左側わたしのかたわれが変形して抜かれる。

…まあ、当然やる気だよね。


「…なんで、私の元から逃げ出したのか、答えてもらうわ、アール」


エルが構える。両手で握る一刀流の構え。

――まともにかち合ったら向こうの方が強いんだよね。


――いつの間にか身に着けてた本心を隠す鎧。

笑顔で、私の心を隠す。


「んっじゃー、私に勝ったら教えてあげるってことで!」


鋏の右側わたしのじゅばくを変形させ――


――ながら、左手で閃光弾を投げる。


「なっ!?」


――その光が開戦の合図となった。



これで稼げる時間は1,2秒くらいかな?二度目は通用しないだろうし。


「卑怯よ!」

「だって私正面からエルと戦って勝ったことないもん」


変形を完了させておいて下がり、さらに左腕で拳銃を抜く。


バァン、バァン。

弾は横の茂みに向かう。


「どこを狙って…!?」


閃光弾から復帰したエルに向かって、昔仕掛けておいたブービートラップの丸太が飛んでくる。


「こんな程度で私を殺れると!?」


当然向こうは丸太を切り裂く。

――回避とかすればいいのに、と毎回思うんだよね。

なまじ切って対処できるから引っかかるんだよね。そこがかわいいんだけど。


「もちろんそんなこと思ってないよ?」

私はおもむろに変形が終わった鋏を――


――無造作に、エルに放り渡すかのように空中に。


「―――?!」


――思考の空白。


「よしっと」

――そしてすでに私は行動を終えている。


同時に投合しておいた鎖分銅。

これでエルを拘束。


「きゅっとね!」

「――!?」


――予想外のことに弱すぎるんだよなあ、エル。


「そんで仕上げに…!」


――そのままエルを森の一方向に投げ。


――昔造った落とし穴に放り込んで。


「ウワーッ!?」


「…じゃあね~」


――鋏を回収して逃げた。

家も変えないとなあ。


――遠くから聞こえるエルの遠吠えを聞きながら、そんなことを思ったりした。



「そんで、なんで君は逃げまわったりなんてするんだい?」


――そんなことを何度か繰り返した後、うんたらかんたら…秘密組織(私はここの傭兵で食い扶持を稼いでいるのだ)の上司、というか顔見知りからそんなことを質問された。


「なんでって言われてもなあー向こうの方が強いからなあー」へらへら

「嘘つきなさい、殺そうと思えばいくらでも殺せるでしょ君」


「んー…」

ちょっとだけ真面目な顔をして答える(ちゃんと答えないとねちねち言われ続けるから面倒なのだ)。


「だって、エルかわいいじゃないですか」

「うん、そうだね」


「でもまあ多分この鋏目当てじゃないですか向こう」

「うん…うん?」


「だからこれを追いかけられてる間は私を見てくれるじゃないですか」

「うん…?前提がずれている気がする…」


「…エート、君は彼女が君を追いかけてる理由が、その鋏にあると思っているわけだね?」

「エッそりゃそうでしょ、私なんて価値のない奴追いかける理由それしかないでしょ」


その答えを聞いて上司は遠い目をした。


「………………これは、エルちゃん苦労しそうだねえ…」

「…?」


――まあそれはよくわからなかったけど。


「今日こそとっつかまえてやるわよアールーっ!」

「アハハ、やってみなよエル」ぽちっ

「ウワッ急に壁が生えた!?」


――こうやって追いかけまわされて命を狙われるのは、悪くないと思っているんだよ。

――君になら殺されてもいいんだし僕は。


「…ああ、人生楽しいなあ!」

「私は全然楽しくないわよーっ!」

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