殺し愛宇宙

@manta100

剣と魔王

「首っ!」

首を落とす。


「死ねーっ!」

土手っ腹を刺す。


「邪魔ぁッ!」

正中線から真っ二つ。


「これで…終わりっ!」

腹をかっさばく。


「フーッ…」

ーー私はいつものように息をついて


『終わりましたか、普段より3秒ぐらい遅いですね、生理ですか?』

「うっさい、いちいち秒数数えないの!しかも言い草がひどい!」

ーーそしていつものように悪態をついた


いつものように持ってた剣をぽいっと投げる


ーーそしていつものように、剣は美しい女になっていた


銀の髪、白い肌、蒼い瞳


ーーそして、それを彩る私の切ったやつらの血


ーー何度見ても見惚れてしまう


『しょうがないですよ、剣でいるの窮屈なんですからさっさと終わらせてほしいところなので』


ーーあとはこの、悪態さえなければなぁ…!



ことの起こりは一年くらい前。

なんだか「魔王が出た」といったことらしい。

でもまあ村娘の私には関係ないなーと思ってたんですよ。

なんだか偉い人が「空から降ってきた聖剣使えるやつ探すぞー」ってなってたんですよ。


私使えたんですよ、超びっくり。


そんでまあ「魔王ぶっ殺してこいや」って言われてこいつとの二人旅なんですよ、今ここ



「大体、なんであんた剣なくせに人になれるのよ、しかもめっちゃきれいな女性」


ーー今日のご飯はさっき殺したやつらの肉、人の形だとばらしにくくて困る


『いくつか理由はありますが、まあ一つは、勇者が発狂とかしないようにですね』


「なんじゃそりゃ!?」


『一人で旅してると意外とあるらしかったんですよ発狂、まあ普通の人は、ですが』

『貴女なら余裕そうですよね』


「どこがじゃ!」


『普通の人は人体みたいなやつばらして食うのやってると気が滅入るらしいですよ』


「人の形してるやつは可食部が少なくてねー…お、焼けた」


『…やっぱり余裕そうですね』


ーー失敬なやつだ!


「ふーんだ、あんたもの食べないもんね!」

「食べないとやってられない人の気持ちをなんてわかんないでしょーね!」


『だから、何度も言ってるじゃないですか、足りない脳ミソじゃ覚えきれないんですか?』


「覚えてるわよ!それでも何度も言ってるのよ!」


ーーそう、別にこいつは食事をしないというわけではない


「あんた使って切ったやつの血を食べてるんでしょ!何回も聞いたわよ!」


ーーそうなのだ、だからやたらと相手の血を巻き散らかしてこいつに浴びせて血化粧させてるのは私の趣味なんかではない、ないったらない!


ーー血浴びてるこいつが綺麗だから沢山見たいなんてことはない!


ーーこいつを使って沢山切ると楽しいとか気持ちいいとかそんなことも断じてない!


『だったら何度も言わせないでください』

「うっさいばーか!」


食べ終わった串を焚き火の中に放り込む!


「そーいえば理由は何個かあるって言ってたけど他は?」


『そうですね、今まで勇者は男性ばかりだったんですよね統計的に、というか貴女が初めての女性というか』


「ふんふん、それで?」


『まあつまるところ、男性に対して女性をあてがうってことで』

『平たく言うと姓処理』


ーー胸のなかで暗い感情が渦巻いた、と思うまもなくこいつの首根っこをつかんでいた


「…」

『…ふふ、怒りました?』


みしっ。

それには答えず、右手に力を入れる


『…ふふ、かわいい人…』

『私はまだ、使われてませんよ?』

『大体、人格乗せた聖剣下ろすの今回が初めてらしいですよ』


「…だったらそんなこと言うな」


ぺっと首を離す、あーむかつく…


『…ふふ、貴女が私の初めての人ですよ…?』


「…み、耳元でささやいてくるな…!」



どうにかこうにか魔王をぶっ殺した。


魔王の血を全部吸ったこいつは今までのなかで一番綺麗だった。


ーーこんなものをもう一度見られるならなんでも殺そうと思った。



城に帰ってきた、あー疲れた。


『…』


ーーこいつは剣の状態で澄まし顔だが


「よくやったぞ勇者よ」


ーー一通りの誉め言葉の後


「では、聖剣を返してもらおうか」


ーー考えるより先に動いてくれるくらい、私の体は優秀だった



『…なにしてんですか、貴女』


誰も囀ずるもののいなくなった広間で声が響く


ーーこんなときでも血を吸ったこいつは綺麗だった


「決まってんじゃない、あんたを取られたくなかったから殺しただけよ」


『…はあ』


「なーにが、はあ、よ」


つかつか近づき、胸ぐらを持つ


「大体において、もうあたしがあんたなしでいられると思うの!」

「血吸ったあんたが綺麗だし!あんたで切ると楽しいし!」

「あんたなしじゃ、あたし満足できないわよ!」

「元々村娘だった私をこんなにして!」

「責任とりなさい!」


ーーそう言われると、目の前のこいつは


『…ああ、それは、とても嬉しいことを言ってくれますね…』


ーーにや、と嗤いやがったのだ


『わかりました、貴女が全てを殺し尽くすまて、私は貴女の剣でいましょう』


ーーそして、私もまた、同じように嗤ったのだ


「…じゃあ行きましょうか、私の剣」

『ええ、行きましょう、私の主』



ーー昔、世界を滅ぼした魔王あり


ーーその姿は、一人の女性と一本の剣とも

ーー二人の女性とも伝わっているーー

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