渇きの戦場

戦場は血を求める。

何処までも貪欲に。何処までも果てしなく。

――そして今日も又、血が流れ――



国と言うには少し小さく。


だが村や町と言うにはあまりに大きい。


そんな”国未満”の境目では何が起こるか。


――当然の如く。



怒号、怒号、怒号。


断末魔の呻きと流れる血潮。


刃と刃がぶつかる音。


誰かの号令。誰かの叫び。誰かの嘆き。


そして私の呟き。

「…もう……嫌だな…」


その呟きは誰にも聞かれることなく消えた。



ざあざあ。ざざー…


――何時の間にか主戦場から離れてしまったようだ。

もういっその事、このまま逃げてしまおうか――


雨から逃れるために入った洞窟の中で、私はそんなことを考えた。


寒い。雨が降り止まない。


――ばしゃん。


「おや、先客かい」


更に一人入ってきた。敵軍の服とマントをまとった女性が。


「――ッ」

「あー落ち着け落ち着け、別に今殺し合うつもりはないさ」


そこからまあひと悶着(殆ど私が喚いただけだが)あって、一晩一緒に過ごすこととなった。


「殺し合うんなら戦場でやった方が楽しいじゃん?」


――これが向こうの言い分だった。



寒い。


「さむいなー…よし、一緒にあったまるか」


あいつはそんなことを言って、私をマントの中に連れ込んだ。


暴れたかったが、暖かかったのは確かなのでやめた。


明日にはまた殺し合うのに、変なやつだと思ったし、今でもそう思っている。



目を覚ましたら、あいつはいなかった。


マントだけおいて去っていったようだ。


雨は止んで虹がかかっていた。怒号と叫びもまた。


私はやや考えてから、また立ち上がり、自軍へと戻っていった。


――戦場でなら、また会えるかもしれないから。



戦場は血を求める。

何処までも貪欲に。何処までも果てしなく。

――そして今日も又、血が流れ――



――また雨が降り、血を洗い流す。


ばしゃん。


「――やあ、また会ったね」

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