27

僕は彼女を抱きしめ、

その小さな背をでながら耳元でささやいた。


「フィナ」


彼女は僕の腕の中で、

借りて来た猫のように小さくなりながら、

固まっていた。


「アクアボイジャーをかして」


僕はそう言って彼女から離れると、

彼女の肩にかけられたアクアボイジャーを

そっとはずして装着そうちゃくした。


そして起動ボタンを押すと、

窓の外で今も心配そうにフィナを見つめる、

ピーピーに向き直った。


「ピーピー。キーキー」


僕は静かにピーピーに語りかける。


その声にさそわれる様にキーキーもあらわれ、

ピーピーの横に並んで、

一緒に僕の話を聞き始めた。


「ピーピー、キーキー。

 僕と兄弟になってくれない」


丸い目が不思議そうに僕を見つめたまま、

イルカ達は何も言わなかった。


「僕はピーピーとキーキー、

 それにフィナを守る。

 だから約束してほしいんだ。

 僕は三人を守るから、

 ピーピーとキーキーは彼女を守って。

 家族になろう 」


「ピキュー ピキュー」


二つのシルエットは不思議な声で鳴きながら、

船体の周りを回り始めた。


その声は何故なぜかアクアボイジャーでも、

翻訳ほんやくされていなかった。


横に並んだフィナがささやく。


『始めて聞く声・・・ 』


そして僕を見上げたずねた。


『なんて言っているの?』


僕は困って首をふるっと、

そっとアクアボイジャーを彼女の頭にかけた。


『聞こえない・・・ 』


それはやはり彼女にもただの鳴き声にしか、

聞こえなかったようだ。


僕と彼女は自然と目を合わせ、

僕は彼女にわからないと首を降った。


『そう・・・

 始めて聞く声だから翻訳ほんやくが出来ないんだ』


僕はそうかも知れないし、

そうじゃないかも知れないと思った。


僕は彼女を見つめ僕の考えを言う。


「そうかも知れないけどこうも考えれるよ。

 言葉なんて最初からないのかも知れない。

 ただ喜びを感情を叫んでるだけなのかも。

 僕達だって泣く時は声をあげるけど

 言葉なんてないよね。

 でもその感情は伝わる。

 ピーピー達はね、

 きっと喜びをあげてるんだよ。

 そこに言葉はないけど、

 言葉以上の沢山たくさんの想いがまっているんだ」


そう言って僕は彼女の肩を引き寄せると、

二人ならんで窓の外で周り続ける兄弟を

見つめ続けた。


彼女はそんな兄弟の姿を見つめながらつぶやいた。


『きっとそう。

 そこに言葉はないと思う。

 感情に言葉は不要ふようなんだと思う』

 

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