11

 


彼女は近場の波間に突き出た団塊だんかいに腰かけ、

イルカの鳴き真似まねをして「ピュウ」と鳴き始めた。




「何してるの?」



『ホイスル音』



「ホイスル音って?」



『イルカの声』



「へぇイルカの声はホイスル音って言うのか」



『違うイルカの声の1つ。

 イルカの声は全部で3つ。

 クイック、ホイスル、バーク。

 人間に聞こえるのはその中の一部の音。

 イルカが会話する時に使う言葉 』



そう言って彼女は笛をさしてつぶやく。



『これもホイスル音』



「でも聞こえなかったよ?」



『全部は聞こえない。

 イルカの声の一部だけ』


そう言って彼女は再びイルカの鳴き真似まねをした。



それに答えるように二頭のイルカは、

「ピーピー」「キーキー」と鳴いていた。



「なんて言ってるの?」



『シグネチャーホイスル。

 ホイスル音の1つ。

 個体によりことなる名前』



「それでピーピーとキーキーなんだね」


『うん』



そう頷いた彼女の顔を見て、

そう言えば彼女の名前を知らないことに気づいた。



「君の名前はなんて言うの?」



彼女はうつむき腰かけた団塊を見つめて、

小さくつぶやいた。



『ノジュール』



聞きなれない名前だ。


外人なのだろうか。



「ノジュールちゃんか。

 僕はまこと海月みつきまことだよ」



『マコ 』



彼女は言いにくそうな発音で舌足したたらずにそうつぶやいた。



『言いにくい』



彼女はふてくされた様にふくれる。



まことはシンとも読むからシンでいいよ」



『シン?』


彼女はそう言ってから微笑ほほえんだ。



『シン』



僕は喜ぶ彼女にたずねる。



「君の名字はなんて言うの?」



『みょうじ?』



少女は不思議そうに僕を見る。



「えっと、名前の前につく名前だよ」



『ノジュールはノジュールだよ。

 それ以上でも、それ以下でもないよ』



「そうなの?」



あまり深く聞かないほうが良いのかも知れない。



「ノジュールちゃんだね。

 かわいい名前だね 」



『かわいい?』



彼女は少し考えてつぶやいた。



『愛してるの?』



いや愛って・・・



『美味しいの?』



いや美味しくいただこうとはしてないよ。



 多分・・・



彼女は自分を指差しつぶやく。



『かわいい』



イルカを指差しささやく。



『かわいい』



僕を指差し囁く。



『かわいい』


『ノジュール、かわいい?』



「うんとってもキュートで、かわいいよ」



彼女はうつむきつぶやく。



『かわいい』



僕は話題を変えようと少女に話しかけた。



「ところでノジュールちゃん。

 僕にもそのイルカの鳴き真似まねできる?」



『もっと気やすくノジュール様でいいよ』



全然ぜんぜんきやすくねぇ~



「それはちょっとね・・・ 」



 

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