24

 

『イルカりょうよ。

 私のパパとママは、

 町の人達にイルカ漁で殺されたの。

 そのとき私は小さな子供で・・・

 何も出来なかった。

 ただボイジャーから聞こえるイルカ達の声を

 聞いてた。


 助けて 助けて。

 痛いよ 痛いよ。

 死にたくない 死にたくない。

 なんで殺すの。 なんで殺すの。

 やめて。 やめて。

 助けて。 助けて。

 痛いよ。 痛いよ。


 ママ。パパ!? 』


彼女は苦しそう耳をふさいで、

その場にうずくまってしまった。



僕はそんな彼女の手をそっとにぎる。



握りかえす彼女の小さな手が、

助けてといっているようだった。



『いつまでもいつまでもその声は響き、

 私はそれでも何も出来なかった。

 私を助けてくれた恩人を、

 私の同族が殺しているのを、

 何も出来ず耳をふさいでいる事しか出来なかった』



彼女は苦しそうに僕を見つめ心の叫びをらした。


『今でもその時の悲鳴が聞こえるの。

  痛みが聞こえるの

  ずっと聞こえるの!』



それは記憶。


  それは贖罪しょくざい


   それはこころを切り


     咆哮ほうこうだった。



嗚咽おえつにじませ僕にすがり付く彼女は、

とても小さな一人の子供だった。



『その時、私と遊んでいたピーピーだけは、

 その漁につかまらずにすんだの。

 私は海から聞こえるその悲鳴を

 ピーピーと一緒に聞いていた。


 でもね聞こえなかったの。

 ピーピーのママとパパの声は聞こえなかったの。

 ピーピーのママとパパは、

 その時の漁で殺されたのは間違まちがいない。

 ピーピーのママとパパは悲鳴を上げなかったの。

 沖合おきあいでいる私とピーピーを守るため、

 ピーピーが助けに来て捕まらないため、

 必死ひっしで声をこらえていたの。

 どんなに痛くても声を上げなかったの。

 どんなに辛くても、痛くても、鳴かなかったの。

 泣かなかったの! 』


嗚咽おえつころし、

窓の外のピーピーを悲しそうに見つめる彼女。



『ピーピーはまだ両親は、

 どこかで生きてると思ってる。

 迷子になってるだけだと思ってる。

 死の声を聞いてないから。

 それは両親がピーピーに残した希望。

 残酷ざんこくで優しい希望 』


その言葉に僕は僕の両親と重ね合わせる。


僕の両親も死の間際まぎわ、僕に希望を残したのかと。


そして気づく。


死を望んだ僕が死ねないんだと言うことを。


両親が残した希望を

つないでいかないといけないんだと。



幼い彼女の横顔を見て思う。

この小さい彼女は僕に色々な事を教えてくれる。



忘れていた温もりを思い出させてくれる。


 

 

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