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そして思いしる。


彼女にとって僕はどこまでも加害者で、

殺戮者さつりくしゃで敵なのだと。


『今でもときどきね、

 ときどき・・・ 』


『ピーピーがね、ピーピーが・・・

 ピーピーが親を探してあの浜辺に近づくの。

 私はいっちゃダメだって、

 あの浜辺に近づいちゃダメだって言ってるのに、

 それでもピーピーは行くの。

 そこにはいないのに、

 パパもママもいないのに行くの。

 探しに行くの。

 キーキーもそれについて行くの。

 キーキーはね、

 むかし私がさびしそうなピーピーのために、

 ピーピーの友達になってあげてって頼んだの。

 その時の約束を今もずっと守っているの。

 決してピーピーから離れないの 』


そう言った彼女の言葉にはなんの打算もみえもなく

、ただ切実せつじつに二人の兄弟を思う心だけがあった。


願いだけがあった。


「僕に何が出来るかはわからないけど約束するよ。

 僕は君の兄弟を守る。

 たとえ日本で孤立こりつしても敵にまわしても僕は、

 君のとなりに立つ。

 君を守る。 兄弟を守る。 仲間を守る。

 イルカを守る 」


それは永遠のちかいだった。


何よりも硬い契約けいやくだった。


何よりもとうとい誓いだった。


それを聞いた彼女は、とたんに、

め込んでいた悲しみを吐き出すように、

泣き始めた。


その小さな体には抱えきれない悲しみを

吹き出すように、次から次にあふれ止まらなかった。


震える小さな体が、

彼女が今まで一人で抱えてきた想いを、

重さを静かにかたっていた。


冷たい深海で一人取り残され、

ふるえていた少女の手をとり僕はちかった。


決して彼女を裏切うらぎらないと。


大人の論理ろんりに飲み込まれないと。


どんなに孤立こりつしようと、僕は彼女のために戦うと。


日本でイルカりょうへの海外からの批判ひはんを、

妨害工作を犯罪者としてあつかわれているのは、

知っている。


所詮しょせんケモノだと。


どんなに切実せつじつに思ってもそれは犯罪だと。


じゃあ家族を殺された人の心は、

どこに救いを求める。


生活を邪魔じゃまするのが犯罪なら、

家族を殺されるのは犯罪じゃないと。


そもそもケモノを家族だと思うのが悪いと。



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