26

目の前で家族を殺されても村人を殺せば、

殺人者として非難ひなんされる。


さばかれる。


死刑になる。


その邪魔じゃまをしただけでも犯罪者になる。


家族を目の前で殺すのは人間だから良くて、

それを邪魔するのは犯罪だと。


どこまでも救われないこの日本で、

僕だけは彼女を裏切らない。

たとえそれが迫害はくがいの対象になっても。


犯罪者としてあつかわれさばかれようと。


僕だけはけっして彼女を見捨みすてない。


日本人として血にまみれ罪にまみれた僕の、

それがせめてもの贖罪しょくざいだった。


深海のせまい船内で二人。


彼女の青銀せいぎんの髪がほのかな灯りに照らされ、

神秘的につやめいていた。


おぼれるような目でじっと僕を見つめる彼女の、

その深海の底のような深い深蒼ディープブルーの瞳の奥に

沈みながら僕はきづく。


僕は海辺の妖精セイレーンの声を聞いた時から、

決してめない夢のとりこになっていたんだ。


この深海の妖精を見つけた時から、

恋に落ちていたんだと思った。



それはやまい


死のやまい


それは愛。



僕は彼女を愛してしまったんだと気づいた。

 

 

 

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