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『私は死におび必死ひっしで海の中もがいていた。

 つかむものの無い海で、それでも何かをつかもうと

 必死でもがいていたの。

 どれだけ海水を飲んだかわからない。

 どれだけあきらめかけたかわからない。


 そんな時、突然私を持ち上げるものがあったの。

 それは海の神が私を助けに来てくれた様な、

 宙に舞い上がる様な感覚。

 私を天にされに神がおとずれたのかと思った』


そう言って彼女は、

せまいコックピットの天井を見上げ、

満天の星空を見るように続けた。


『でも違った。

 それは神なんかよりもっと優しいものだった』


そう言うと彼女は窓の外に向かって話しかけた。


『ピーピー、キーキー、聞こえてる。

 一緒に聞いて』


そう言ってから彼女は息をととのえると、

ふたたび話し始めた。


『神なんかよりもっと優しい存在。

 それはイルカよ。

 私はその時イルカに助けられた。

 私は当時3歳。

 海でおぼれる小さな存在そんざいの私をすくってくれたのは、

 イルカ。

 ピーピーの両親よ。

 その時からイルカは私の神になった』


そう言って窓の外を見つめる彼女。


そこに誘われる様にピーピーが顔を近づけていた。


優しい目が、

コックピットの中の少女を気づかうように、

じっと見つめていた。 

 

『ありがとう。ピーピー』


彼女はそう言って泣きそうな笑顔を見せると、

話を続けた。


『私は両親の顔をおぼえていない。

 その当時の記憶きおくもあまり残ってない。

 でもその時の記憶だけは鮮明せんめいに残ってる。

 私を助けてくれた私の大切な人。

 私の新しい両親。

 私の恩人。

 二人のつがいのイルカ。

 ピーピーのママとパパ。

 その時からピーピーのママとパパは、

 ピーピーと私の両親になった 』


そのとき窓の外のピーピーが少女を見つめ、

悲しそうに鳴いた。


「ピュクゥー ピュクゥー」


それはあまりに悲しい兄弟のかたらいだった。



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