30

 

どれくらいそうしてただろうか。



ふと彼女は俺のほほに手をえたまま離れると

優しくその頬をでつぶやいた。



「もう1つのボイジャーがあるの」



そしておもむろに彼女は座席の下から、

もう1つのボイジャーを取り出して言った。



「これをつけて」



僕は言われるがままにそのボイジャーを、

頭に付ける。



「これは試作品。

 アクアボイジャーの改良型で、

 まだ実用にはいたってないわ 」



そう言って彼女は、

僕が装着したボイジャーの電源を入れた。



途端とたんに彼女の感情があふれるように、

僕の心の中に広がった。



それは優しく僕を包み込むような愛で、

あふれていた。



「これは・・・ 」



僕がその現象を彼女にたずねようとすると、

彼女は「シッ」と言って、

人差し指で僕の唇をふさいだ。



そして僕を見つめたまま動かない彼女の、

無言の声が聞こえてきた。


【聞こえる。

 これは心を繋げる機械。

 心の声を届ける機械。

 感情を届ける機械なの】



心の中に優しく響く彼女の心を聞きながら、

それでも彼女の唇は少しも動いてなかった。



【僕は疑問を浮かべ彼女を見つめると

 彼女は優しくその疑問に答えてくれた】


【そう思うだけでいい。

 思った事は全て相手に伝わる。

 それがソウルリンクボイジャー】


【その声に、僕の考えは全て

 彼女に筒抜けだと言う事実に気がつき、

 僕は急に恥ずかしくなる 】


【大丈夫。

 あなたの心にやましさがなければ、

 何も恥じる必要はない 】


【そうか君の心も筒抜けなんだからね】


【そう。

 イルカと話しする、

 このアクアボイジャーの開発には、

 どうやってイルカの声を翻訳ほんやくしたと思う?】


【僕は少し考え答える。

 わからない】


【大丈夫、

 言葉に置き換えなくても感情は伝わるわ。

 あなたは疑問に思うだけでいいの。

 むしろ言葉は邪魔。

 その感情を歪めて伝える。

 言葉と言うカテゴリーに当てはめてね】


【僕はその言葉にただ感情のままに、

 何も考えない事、いや違うな、

 感情だけで考える事を試してみる】


【だが僕の思考は、

 長年の風習で既に毒されているみたいだ。

 なかなか上手くいかない】


【なれるまでは今のままでいいわ】


【彼女のその心が優しく僕の中に広がった】


【彼女は途端に何故か赤くなり、

 感情がノイズのように乱れる】



【それは愛しさや嬉しさと共に、

 彼女の深部を覗かれる恐れや気恥ずかしさも

 同時に伝えていた 】

 

 

 

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