29

 

そんな視線に気がついたのか、

おもむろに彼女は振り返り、

僕の目を見つめ続けた。


じっと。ただ黙って。


まるでその心の中をのぞき込もうとするように。


僕はそんな彼女を見つめたまま、

その本心を隠すつもりはなかった。


僕が彼女を好きだと言う本心を。


僕は彼女を愛していると言う本心を。


例えそれで嫌われようと。

彼女を失う事になろうと。

ただ伝えたかった。


君を愛している人がいると言うことを。


愛していた人がいたと言うことを。


君は世界で一人じゃないと言うことを。


彼女は無表情のまま、

そんな僕から目線を離すと、

バイザーをつけて外のイルカに話しかけた。


『ピーピー、キーキー、少しの間ごめんね』


彼女はそう言うとバイザーを切り、

操縦席に置いて何かのスイチを下ろした。


途端とたんに窓は、

スモークがかかったように真っ黒になり、

外の景色は見えなくなった。


ブラウン管が切れたように唐突とうとつに、

遮光しゃこうカーテンがかかったように、

全てを包み隠していた。


彼女は僕のひざの上で振り返り座り直す。


彼女の小さなお尻が、

ぺたんと僕のひざの上でつぶれ、

僕達は向い合わせで座っていた。


彼女は僕を見つめ、

僕は彼女を見つめ続けた。


そこに言葉はなかった。


ただ無言で語り合った。


彼女の瞳の奥の、

どこまでも深い深海の中に僕は沈み、

溺水できすいしていった。


青い果実をみ取るように。


そのうちさそわれるようにして、

どちらからともなく二人は唇を重ねていた。


僕は彼女の小さな体を抱きしめキスをした。


それは互いの孤独を埋めるようなキスだった。


たがいの温もりを求めるようなキスだった。


孤独こどく孤独こどくが出会い、

それは必然の成り行きだった。


決められた運命だった。


決められた定めだった。


決められた二人だった。


互いにけたものをめ合わせるように、

二人はいつまでもむつみあった。


重なりあった。


つながりあった。


求めあった。

 

 

たがいの孤独こどくからつむがれる会瀬おうせは、

何処どこまでも透明で不器用で、

それでも互いを求め、

決して離そうとはしなかった。


これまでの孤独をめるようにおぎなうように、

二人は何処までも貪欲どんよくに互いを求めあった。


むさぼりあった。


彼女の小さな温もりが僕の全てを満たし、

体の奥にまったうみが全て出てゆくように、

悲しみの全てが浄化されてゆくように、

ただ幸せの余韻よいんの中で僕は彼女を感じ、

彼女は僕を感じていた。


その瞬間世界の全ては消え去り、

ただ二人の温もりだけがそこにはあった。




悠久ゆうきゅうの時間に溶け込むように、

二人のシルエットはいつまでも!

重なりあっていた。

 

 

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