33

 

僕の腕の中の彼女は、幸せのいんの中で、

ふと深海の夜空を見上げつぶやいた。



『あれ!』


そうして起き上がり、

キョロキョロとあたりをわたし始めた。



そのぐさ可愛かわいくて、

思わず僕は彼女を引ききしめる。


そんな僕を彼女は押し退けるようにして言った。



『ピーピーとキーキーがいない!?』



僕はあわてて窓の外を見ると、

そこにはピーピーとキーキーの姿がなかった。



彼女はあわてて船体のライトをつける。



全方位に広がった明かりが、

深海の闇をらし出した。



そこに二匹の兄弟の姿は無く、

ただ千切ちぎれたケーブルだけがただよっていた。


彼女はこれ以上ないほど取りみだし、

僕にしがみついた。



『どうしよう?どうしよう?どうしよう?』



それは津波が来た時でも、

まったおうじなかった彼女の始めてみる姿だった。



明らかに彼女の弱点アキレス腱をさらけ出していた。



「サメにでも襲われたんじゃ」



僕がそうつぶやくと彼女はすぐに反論はんろんした。



『それはない』


信満々しんまんまん断言だんげんする彼女に僕はたずねる。



「どうして?」



訓練くんれんされたイルカはたとえば軍用イルカ達は、

 大型のサメでも殺す事無く撃退出来るの。


 殺すよりずっとむずかしい事よ。


 それはれで狩りをする彼らが、

 お互いに会話しながら連携れんけいをとれるから。


 つねに単独行動のサメは彼らにかなわないの。


 だからサメはけっしてイルカを襲わない。


ピーピー達はまだ子供で二人しかいないけど、

 それでも普通のサメには負けないわ。


 それは彼らが二人で一人だから。


 けっしてたがいを見捨みすてないとわかってるから。


 だからどちらかがおとりになって、

 はいから攻撃出来るの。


 それは軍用イルカでも、

 たがいの信頼がなければ出来ない事なの。


 でも二人にはそれが出来る。


 二人は愛でつながってるから。


 どんな事があってもたがいを見捨みすてないと

 わかっているから 』



それは人間がならうべき彼らのきずなだった。



そんなサメより強い彼らが、

人間を襲った事例はほとんど聞かない。



逆にサメに襲われてる所を助けられたり、

おぼれている所をイルカに助けられた事例は、

昔から世界中で残っている。


それでも全ての個体が、

人間に友好的なわけではない。


たとえば、

イルカりょうで人間に仲間を殺されたイルカは、

人間を憎んでいるだろう。



人間を見かければ逃げるか、

襲って来るかも知れない。


 

 

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