36

 

 

『とにかくピーピー達を探さないと!』



そう言った彼女の顔には、

あきらかなあせりがあった。


それはそうだ、彼女が言ったように、

この船体のエンジンは壊れている。


自力では動かないのだ。



ピーピーとキーキーに、

ってもらわなければ。


そう思いいたった瞬間、

二人は同時に声を上げていた。



「『あっ!?』」



僕と彼女はおたがいを見つめ、

どちらが先にしゃべるか逡巡しゅんじゅんしていた。


僕が先に口を開く。


「もしかして、いやもしかしなくても、

 閉じ込められた。

僕達はこの海底に取り残され動けないんじゃ」



僕は窓の外を見上げ海上までの距離を考える。


彼女がそんな僕の考えを見透みすかすように、

静かにげた。



『うん。脱出は無理。

 ここは海底260メートル。

 人間の潜水せんすいの最高記録は300メートル。

 これは訓練くんれんされた世界最高の人間。

 普通の人間が出れば減圧症げんあつしょうそく

 出れば死ぬ。 閉じ込められた 』



それは絶望的な状況じょうきょうげる序曲じょきょくだった。



大丈夫だいじょうぶ浮上ふじょうは出来る。

 バラストタンク内の水を手動で排出はいしゅつすれば、

 浮き上がる事は出来る。

 ただピーピー達を追いかけるのは無理むり



そう言ってから彼女は船体の電源を入れ

コンソールのソナーを見つめた。

蒼白おおじろ光沢こうたくが彼女の顔を妖艶ようえんらし出す。



『アクティブソナーもパッシブソナーもダメ。

 津波の影響えいきょうで海がれて、

 その雑音ノイズで、音波での探索たんさく無理むり



僕は彼女のとなりからその計器をのさぞみ、

彼女にたずねる。



「その計器は何を見るものなの?」



『これはアクティブソナーで、

 パルス状の音波を発して、

 音が反射して戻ってくるまでの時間で、

 その物体までの距離を測定そくていするの。


 でも海の海水がはげしく動いてるため、

 ぐに発射出来ないで、

 乱反射らんはんしゃして測定そくてい出来できない。


 次にそのとなりのがパッシブソナー。

 相手がはっする音をとらえその位置いち測定そくていする。


 これも海流の流れがはげしく、

 雑音ノイズで何もとらえれない 』



「つまり手詰てづまりって事か 」



『うん手詰てづまり・・・ 』


 

 

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