失われた楽園

21

僕はそんな彼女がほっておけず、

自然と言葉が出ていた。


「少し昔話しようか」


僕はこれまで誰にも話さなかったい立ちを、

何故なぜかこの少女に話していた。


それは僕の中の禁忌きんき


誰にもれさせたくない痛み。


誰とも共有できない悲しみと弱さだった。


「僕はね。

 小さいとき両親を事故で亡くしてるんだ」


それは禁忌きんきの扉。


これまで決して口に出来なかった現実が、

何故なぜかこの少女の前ではれだしていた。


後悔こうかいした。 憎んだ。 絶望ぜつぼうした。

 今もそれは続いてる。

 答えもなくただ無限に続く痛みの中で、

 今も僕のそれは続いている 」


固く閉じた禁忌きんきの扉は、

一度開くと、次から次にあふれ出す感情の波が、

止まらなくなっていた。


「晴れない空は無いとか、

 痛みは思い出に変わるとか言うけど、

 そんな言葉はなんのなぐさめにもならないよね。

 でもいつかこの痛みを受け入れれたら、

 僕はこの痛みを感じる人を、

 少しでも減らしたいと

 思うよ。

 僕と同じ痛みを、

 もう誰にも味わって欲しくないから」


僕の中の冷めた僕が心の中で、

なぜ僕はこの少女にこんな話をしてるんだろうと、

つぶやいていた。


彼女はそんな僕を見つめそっとその手をにぎった。


まるで傷をわけあうようにそっと握りしめた。


そして彼女は話し出した。


『私はそんな風に思えない』


ぽつりとれた彼女の心音しんおん


ぽつりぽつりとその雨は、段々だんだんとその量を強めた。


『私も・・・だよ』


彼女はうつむきまるで独り言のようにつぶやいていた。


『私も両親が居なくなった』


死と言う言葉を使えないのが、

彼女がまだその事実を受け止められないでいる

現実をあらわしているようだった。


『多分・・・  』


僕はそれきり黙ってしまった彼女の次の言葉を、

いつまでも待ち続けた。


彼女の心が溶けるまでいつまでも。


どれくらいそうしていただろう。


無音の深海で、彼女の温もりだけが、

鼓動だけがそこに存在していた。



彼女は再び語り始めた。


『事故・・・

 事故で船が転覆てんぷくし私は海に流された』


それは彼女の壮絶そうぜつな過去を物語る序章じょしょうだった。


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