男の戦い?

 と思ったところでアリサエマが視界に入った。

 アリサエマもリルフィーのように顔面蒼白で……怯えている。灯の袖を引っ張ってしきりに翻意を促すが……灯は意に介さない。

 アリサエマのその態度を見て、少しやる気が削げた。

「俺はそういう『プレイスタイル』は好きじゃない。お互いに関り合わないことにしないか?」

 最後通告のつもりで灯に言った。

 図星だったのかアリサエマの身体が硬直する。しかし、灯は自信満々の態度を崩さない。そして――

「いやいや……人さんのスタイルに口出しなんてアカン」

 自分に言われたと勘違いしたのか、『お笑い』が先陣を切ってきた。

 相変わらずおどけた口調だが目は全く笑っていない。宣戦布告なら受けると言う意思表示なのだろうが……ひどい見当外れだ。

「雑魚なんだろ……許してやれよ」

 『ワル』が俺を挑発するが……システムを見抜いている俺には効果が薄い。挑発担当なんぞ対処法は簡単だ。完全無視に限る。

 何かを言い出しそうだったカエデの肩を優しく押えた。

 優しいカエデは俺への暴言が許せなかったんだろうが……カエデが心を痛めるようなことじゃない。そんな気持ちを込めてカエデの目を見つめると、不思議そうな顔をしたが解ってくれたようだ。

 肩なんて凄く華奢で力を込めたら折れてしまいそうだし……目はキラキラしているし……カエデは良い子だなぁ。改めて思った。絶対に結婚しよう!

「雑魚ってなんだよ! 取り消せ! ……それから俺はニートじゃない!」

 安い挑発にまんまとのるリルフィー。

 肩なんて折れそうなほど凄く力が込もっているし…………目はギラギラしているし……リルフィーは使えない子だなぁ。改めて思った。絶対に決別しよう!

「きゃっ! こわーい! 思い通りにならないから怒鳴るなんてサイテー!」

 灯は言葉とは裏腹にとても楽しそうだったし……意地悪そうな目付きだった。

「たぶん、彼は独りが好きなプレイスタイルなんだ。それに灯みたいな可愛い女の子と話して緊張してるんだよ……放っておいてあげた方が良い」

 親切そうにとんでもない事を言い出す『主人公』。

 俺は一言も独りが好きだなんて言ってないし、別に緊張もしていない。善意を装った事実を捻じ曲げる悪意がある。下手に否定したら、逆に奴の言葉に説得力が生まれそうなのが厄介だ。そして俺を弾き出す伏線にもなっている。

 それに思いもよらない援護射撃に灯も大喜びだ。

 敵ながら、こいつらのシステムは良く練られていて見事と言うしかない。しかし、穴があるのも事実だ。リルフィーが暴発する前にそこを突かせてもらう。

「それが良いと思います」

 俺と『美形』は異口同音に同じ台詞を言った。


 その場の雰囲気は奇妙なものに変わる。

 当たり前だ。俺は精一杯、『美形』のイントネーションを真似してやったし……真似をされた『美形』も途中で言葉が尻すぼみになったからだ。

「いや、すまないな……緊張してたもんだから……つい……台詞を盗っちゃったよ」

 俺はニヤニヤと笑いながら『美形』に謝ってやった。

 一瞬、『お笑い』がしまったという顔をしたが、すぐに表情を隠す。

 『美形』はおどおどした態度だったし、『主人公』と『ワル』も驚きを隠せていない。その場にいる全員が俺の行動を理解しているとは言えないだろうが……明らかに「何かおかしい」とは感じたようだった。

 薄っすらとでも理解できてないのはリルフィーくらいだ。……キョトンとした顔してやがる。

「あんさんがそう思うなら……わしらはお暇するかな」

 すぐさま切り返してくる『お笑い』。

 やはりコイツは頭の回転が速い。四人組の軍師もコイツで間違いなさそうだ。

 会話の流れは「俺を独りで放っておく」だし、俺も「それが良いと思う」と答えたわけだから……言葉尻を捕らえつつ、話を本筋へ戻して奇妙な雰囲気を変えるつもりだろう。

「……独りが好きな根暗野郎とわざわざつるまなくてもいいだろ」

 『ワル』もなんとか援護射撃をする。しかし、やや言葉に精彩を感じられなかった。

 リルフィーがまたも脊髄反射で言い返しそうになるのを――

「そういうことなら……リルフィー、軽く狩り行こうぜ? カエデもネリウムさんもそれで良いよね?」

 先に俺が言葉を被せて封じた。

 システム上、『ワル』の発言は相手を挑発できなかったら意味がなくなる。事実、失礼な発言を大人の態度で流した俺となっただろう。

 俺は話している間、ずっと『お笑い』を観察していた。

 軍師タイプであれば……ここで決着も止む無しのはずだ。俺の撤退を認めれば灯とアリサエマは戦果として手元に残せる。『お笑い』は頭の回転が速すぎるから……俺では抑えきれない可能性が高い。コイツ相手に長期戦の選択は愚策だ。

 『お笑い』が考えている僅かな間に――

「悪かった。緊張してるとか言っちゃってさ……そんなに気を悪くするとは思わなかったんだ。せっかくなんだから仲良くやろう。あれだ……女の子と話すときはリラックスした方が良いぜ?」

 『主人公』が謝罪の体で煽ってくる。

 カエデとネリウムに立ち去られたら奴らにとっては負けであるから、判断は間違っていないんだろうが……俺も『お笑い』も手打ちにするチャンスを失ってしまった。

 仕方がない。徹底抗戦だ。

 俺は『主人公』が話を終えたあたりから『美形』をわざとらしく観察してやった。それだけで場に奇妙な雰囲気が戻ってくる。

 『美形』はわたわたと『お笑い』を縋るように見ているし……その場にいる全員は『美形』を窺うように見ている。リルフィー以外の全員が『美形』の言動がおかしいことには気がついていた。

 それにリルフィーもようやく、みんなが変と感じているのを気がついたようだ。

 だが、『お笑い』は『美形』を無視し、『ワル』に強い視線を投げる。

 まずい! コイツら……こんな状況すら想定したシナリオ持っているのか?

 軍師の意を汲み『ワル』が口を開く――

「あっ! 『それが良いと思います』だ!」

 しかし、こんどはリルフィーが『美形』の台詞を繰り返した。

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