出撃
「俺……『最終幻想VRオンライン』で転生とカンストして最終職なんだぜ! 『疾風☆リルフィー』ってキャラクターネームなんだけど知らない?」
コピペのようにアリスの時と全く同じことを言いやがった。一瞬、見直して損した! 金を返して欲しい!
同じ失敗を繰り返す奴は馬鹿と言われるが、それは間違っている。馬鹿だから失敗を失敗と認識できないだけだ!
「えー意味わかんなーい。ウケルー」
しかし、奇跡が起きた! さやタ………………女エルフはリルフィーの挨拶をギャグと受け止めたようだ!
全く羨ましくないけど、凄いぞリルフィー! 繋ぐんだ! 何か繋いで追撃だ!
「えっと……胸大きいね! あははっ!」
……最悪だ。守護天使がダース単位で護っていてもフォローは不可能に違いない。
「下ネタ最悪ぅー!」
すげえ……あれでも会話を続けてくれてる! でも、さやタ…………女エルフはお前のことを睨んでもいるぞ。なんとか立て直すんだ!
「ご、ごめんなひゃい!」
……大事なとこで噛みやがった。
!
信じられねぇ……。
さやタ……女エルフの奴……笑ってやがる!
意味が解からない。
意味不明の挨拶して……セクハラして……謝るときに噛んだら……上手いこと進んでる。
これが『モテ期』って奴か? ……都市伝説だとばかり思ってた。
がんばるんだ、リルフィー! きっと、次の『モテ期』は七十六年後だ! 次は無いものと思わなければ!
「ちょうウケルー! えっと……『やかぜほしりるふぃ』って呼べばいいの?」
睨んでいるように見えたのは、リルフィーのキャラクターネームを確認していただけか……。
ほんの数十秒前に「しっぷうきらぼしのりるふぃ」と自己紹介されたのに……それに『疾』を『や』と読んじゃうか……。だいぶアレだな……いいのか、リルフィー?
「リ、リルフィーって呼んでくれば良いよ」
……本当にそれでいいのか、リルフィー?
「私は『さやタン』だお! よろしくね!」
ぐっ……。思わず怒鳴りつけてしまうところだった……。リルフィーが耐えているのに、俺が奴の努力を無駄にするわけには……。
「よ、よろしくな! さやタ……タ…………。さやターン!」
いかにリルフィーでも面と向かっては呼べなかったか。しかし……咄嗟に「ターン」と長く読むことで危機を乗り越えるとは……。
俺が思っているよりずっと、奴は大きな男だ。
「アハハッ! さやタンだってば! もう、ちょうウケルー!」
「あ、あはは…………」
「待たせたな、さやタン! ……って、誰? そいつ?」
「ジョニー!」
二人に注目していて気がつかなかったが、いつの間にか二人のそばに男がいた。
会話の流れからして……そいつがジョニーと思われる。
ジョニーを認めるとすぐにさや………………女エルフは抱きついた。ジョニーもさや…………女エルフも馴れた風だったから、日常的な行為なんだろう。
「もう、ジョニー遅ーい! さやタン待ちくたびれちゃったお! ぷんぷん!」
……まずい、頭の芯の方が覚めてきた。……許容範囲の限界超えてる。
「わりぃ……わりぃ……。ちょっとアバターが決まらなくてよぉ……」
ジョニーが大物ぶった感じで答える。
さや……女エルフは男を見た瞬間からジョニーと呼んでいるし……日常的にこいつらは『ジョニー』『さやなんとか』と呼び合っているのかもしれない!
念のためにジョニーのキャラクターネームを確認してみると……『じょにー』だった。間違いないだろう。
ちなみにジョニーは獣人……虎の獣人だ。普通の日本人の顔――ニキビ跡が目立つ、やや下膨れ――で虎の耳と尻尾をつけているのは……「ふざけているのか?」と問い詰めたくなってくる。
「もうっ! さやタン、ナンパされちゃったじゃなーい! さやタン可愛いんだから……ほっといたら浮気しちゃうゾ!」
それで……俺にも理解できた。
たぶん、リルフィーはさやなんとかの暇つぶしの相手であり……当て馬であり……ちょっとした優越感に浸るための道具だったのだ。
ああ、まずい……。短くない付き合いだから多少は解かる。リルフィーの奴……あれは爆発寸前の顔だ。いつもヘラヘラした態度ではあるが……実はやる時はやるタイプでもある。我慢できると良いのだが……。
「すまねぇなアンタ……」
ジョニーは気障ったらしくポーズをつけ、リルフィーを指差しながら続けた。
「こいつは俺の女神なんだ。さやタンが魅力的なのは解かるけど……色恋は早い者勝ちだからな。悪いが……アンタの出番は無いのさ……」
そう言って、ジョニーは両の掌を上に向け、肩をすくめるジェスチャーをした。
「イ……イヒヒヒヒヒ…………」
あっ…………。もうダメだ。リルフィーの奴、止められないところまで……限界突破しちまった。俺にはどちらが良いとも悪いとも思えなかったが……ここでリルフィーを見捨てられるほど肝は太くない。止められないなら……助太刀するしかないだろうなぁ……。
急いで奴の方へ向かうが――
「きもーい! さっきもセクハラばっかだしぃ! さやタンこわーい」
先ほどのノーガードの緩さはどこにいったのか……。さやなんとかは堂に入った煽りを見せてくれる。やめろ! リルフィーはもうキレてんだから!
「そいつはいけねぇな……アンタ……女には礼儀正しくするのが男ってもんだぜ?」
そう言いながらジョニーは片手を目の前に突き出し……立てた人差し指を左右に振る。
すげぇなこいつら……あり得ないくらいの煽り力だ……。
……そしてリルフィーは剣を抜いた。
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