攻略

「それはそうと……私の投げた石はどこへいってしまったでしょう?」

「あ、こっちです! はずれて、こっちの方へ………………あった!」

「ありがとうございます。どうも……飛び道具は苦手なもので……」

「コツがあるんですよ! 上手く当てようとするんじゃなくて……上手く当てるイメージをするというか――」

 拾った石を手渡しながら、リルフィーは嬉しそうにネリウムに説明するが……ネリウムは狙いをはずしていない。布石としてきちんと投じられている。

 文字通りの一石二鳥に舌を巻く思いだが……他人の狩りは邪魔をしないのがマナーだろう。

「よし、次を探してみよう。色々とやりたいことあるしな。カエデ、また近くに赤い?光の柱?があるんじゃないか?」

「そうなの? うんと………………あっ! あっちにあるよ! どうして解かったの?」

 カエデは驚いているが……そんなに驚くようなことではない。

「たぶん、そこにまたモンスターが……『きいろスライム』がいると思うぜ」


 全員でカエデの案内する方へいくと、やはり『きいろスライム』がいた。

「すごーい……どうして解かったの?」

「いや、大した推理じゃないさ。カエデの『気配探知』のスキルじゃないか? そのスキルがあると光の柱が立って、発見しやすくなるんだろ。たぶん」

 まだ色々な推測があるが、この場では解説しなくても良いだろう。

「……なんだか捗りそうなスキルですね。『気配探知』は『戦士』でも取れるのかな……。こいつはどう料理します?」

 索敵がてきぱきと出来るかは効率に大きく関わるので、廃人であるリルフィーには貴重な情報なのだ。

「さっきと同じ作戦でやってみよう」

 俺の提案に皆は肯き、同じように全員が準備するが……やはり、魔法一発で倒せてしまう。ドロップも同じように『基本溶液』二つに金貨が十数ちょっとだ。

「予想通り……ですか? 魔法が強いのか……こいつが魔法に弱いのかな?」

 なぜかリルフィーはメニューウィンドをあちこちと弄りながら予想を述べる。

「次の実験で確定できるな。なにやってんだ?」

「経験点を調べとこうと……あった。四点になってますね。レベルアップまでに百点必要だから……げっ! あと四十八匹倒さないとダメっすよ!」

 リルフィーの言う経験点とは、モンスターを狩るもう一つの目的だ。

 モンスターの強さなどを総合的に評価して、倒したときに得られる点数が決まっている。その点数が一定の数値まで貯まればレベルアップして――キャラクターが強くなっていく。

 どう強くなっていくかはゲームによって様々だが、少なくともHPとMPの増加くらいは期待できるだろう。

 それに経験点の方でも、予想の裏づけをしてくれそうだった。

「カエデ、次の奴のところに案内してくれ。それで解かると思う」


 すぐに次の『きいろスライム』が発見できた。

 『気配探知』があればモンスターを次々と発見できるし、場合によっては回避にも役に立つだろうから、凄いスキルなのかもしれない。……真面目に攻略するのであればだが。

「次は……少し面倒だけど、武器だけで倒すのを狙ってみよう。ネリウムさんにHP監視してもらって……撤退の指示があったらその人は下がること。たぶん、近くの奴にしか反撃しないから、それで良いはずだ。悪いけど……アリサさんは見学な」

「はい」

「少し早めに撤退を指示することにしますね。MPの申告もしますか?」

 アリサエマは素直に従ってくれるし、ネリウムも直ぐに意図を理解してくれるから楽だ。どうしたことだろう? だいたい、いつも……「常にリーダーに文句を言う奴」的な扱いなのだが……。

「MPだとあれだから……回復魔法の回数でお願いします」

「了解しました」

 打ち合わせが終わったので、俺とリルフィー、カエデの三人で対処してみることになった。

 跳ねると最初から判ってれば驚くこともないし、慣れれば攻撃を当てることも難しくはない。何よりも的が大きい。

 それよりも攻撃が命中したら飛んでくる反撃が厄介だった。攻撃した瞬間を狙われるのは避けにくいし、避けるのに注意を払いすぎると攻撃が疎かになる。

 それに異常にタフだ。

 三人がかりで二十回以上は攻撃が命中しているのに、まるで動きに変化がなかった。とても倒せそうには感じない。

「み、みんな無理しないで!」

「回復魔法が尽きました! リルフィーさん、下がって!」

 後ろで見ている二人もヒヤヒヤしているのだろう。

 リルフィーが真っ先に下がる羽目になったのは、奴が最も命中率が良かったからだ。命中すれば反撃がくるのだから、上手いほうが被弾が多くなる。

「タケルさん! こいつカウンター持ちで確定っすよ! それに物理で落とすのは無理じゃないっすか?」

 リルフィーが下がりながら叫ぶ。

 俺も同じ結論ではあるが、確認のためにやっているだけではある。

「そろそろ諦めるか。カエデ、先に下がれ」

「う、うん。……無理しないでね!」

 そう言いながらカエデも下がる。

 俺もこれで最後にと攻撃をしたら……それで倒せてしまった。

 倒せたのは拙くはないのだが、予想とは違う。

「……ありゃ?」

 思わずマヌケな声がでる。


 『きいろスライム』を倒した跡には同じドロップがあり、今回はさらにドリンク剤サイズのビンがあった。これも数が二つだ。

「物理無効じゃなくて……耐性なのかな? これは……『初級回復薬』みたいですね。一応はレアドロップなのかな?」

 リルフィーがドロップを拾いながら、そんな推理をしていた。

 それでもおかしくない気はするが……微妙に違う気もする。

「んー……耐性に関しては結論を先送りにしときたいな。それでも、いくつか解かった気がする」

 俺の言葉にみんなが集まってきた。

 ネリウムはそのまま『瞑想』のスキルを使い始める。全員の回復をする間の暇つぶしにはなりそうだ。

「まず、ドロップは二倍になってるな。ドロップ個数だけじゃなくて、たぶんドロップ確率も。経験点も倍付けじゃないかな」

「あー……βテストですもんね。二倍かぁ……少し控えめな気も……でも、経験点もですか? あいつ一匹でたったの二点ですよ?」

 リルフィーが納得しつつも反論してきた。

 MMOのテストプレイする場合、ドロップの確率や量、経験点などを本来の仕様より多くし、ゲームの進行を想定より速くしてデータをとるのは一般的なことだ。

「俺たちは五人パーティだから、あれ一匹の経験点は十点……正式サービス開始後なら五点ってとこだろ。βテストでも十匹倒せばレベルアップ、正式サービス開始後でも二十匹だ。それくらいならおかしくは無いだろ?」

「でも、それはソロの場合でしょ? ボクたち五人で凄い苦労してるんだよ?」

 カエデも納得いかないようだった。

「いや、俺たちが間違ってるんだ。ここいら辺はきっとソロ用狩場……それも『魔法使い』専用のソロ狩場だな」

「ああ、なるほど。そう考えると……確かに『魔法使い』ソロ向きですね」

 ネリウムは納得したようだが、アリサエマは良く解からないようだ。

「『きいろスライム』は魔法で倒せるから、一人でもなんとかなるだろ? 接近しなければ反撃できないだろうし」

「それにアクティブモンスターもいないようですから。『瞑想』のスキルも使い易いですし、ソロ志向の『魔法使い』の最初には良いと思えます。それなりに実入りもありそうですし」

 俺の説明をネリウムが補足してくれる。

 アリサエマは説明を聞いて、感心するばかりのようだ。その姿に自分が初心者だった頃を思い出させられる。

 ドロップや経験点で表されないこんなこと……他人との関わりもMMOの楽しみの一つだ。慣れていくと忘れてしまいがちだが。

 しかし、今回はMMOを遊びに来たわけではない。

「とりあえずあれだ。回復したら狩場を変えよう。俺は街を中心に回る感じで調べていくのが良いと思うんだが――」

「それが良いですね! 下手に遠くに行くと手に余るでしょうし!」

 素早くネリウムが俺の言葉に被せてくれる。頼りになるなぁ。

 遠出を試みるのも手ではあるが、街から離れれば離れるほど戻るのが大変になる。ここは街周辺を探索の一択だ。


 全員の回復が済んでから、俺たちは移動することにした。

 今度は移動が優先で、たまたま進路上にいた『きいろスライム』だけを倒す感じだ。

 やはり『魔法使い』ソロ狩場という予想は正解らしく……俺たちは『アリサエマとその他大勢たち』といった様相になってきた。

 しかし、何匹目かと遭遇したときにちょっとしたアクシデントが起きた。

 アリサエマがこれまでのように魔法で攻撃したのだが、その一撃で『きいろスライム』は倒されなかったのだ。俺たちが叩いたときと同じように、『きいろスライム』は垂直に飛び跳ね始める。

「わっ! ど、どうすれば……これじゃ狙いが……」

 想定外だったらしくアリサエマは軽いパニックに陥った。

「アリサさん! イメージっすよ! イメージ!」

「が、がんばってアリサさん!」

 リルフィーは無責任なアドバイスを、カエデは心温まる声援を送るが……まあ、それで出来るようになれば誰も苦労はしない。

 軽く涙目になっているアリサエマを助けるべく俺は近づいた。

「アリサさん、杖は動かさないで……まあ、こんな位置で固定しとくんだ。武器のときはそれなりに動かす必要があるけど、魔法ならそうしなくても良い。……どうかしたの?」

 後ろから手を添えて正しい位置に修正し、アドバイスをしようとしたら……なぜかアリサエマは真っ赤になって俯いていた。

「はひっ! いえっ! どうもしませんっ!」

 ……なんだか解からない返事だ。

 もしかしたら恥ずかしがり屋なのかもしれない。まあ、男でも女でも恥ずかしがり屋はいるのだから、アリサエマが恥ずかしがり屋でもおかしくないだろう。

「……それで杖の先と糸がと言うか、線がと言うか……そういうのがターゲットに……あの『きいろスライム』に繋がっているとイメージするんだ。その想像した糸を伝って魔法が飛んでいくイメージもね。できた?」

「は、はいっ!」

 やけに力が入っているけど……大丈夫なんだろうか?

「じゃ、やってみて」

「ファ、『ファイヤー』!」

 その掛け声と共に杖の先から火の玉が勢い良く発射された。軽く弧を描いていたのは、そんな風にアリサエマがイメージしていたからだろう。

 その追撃で『きいろスライム』を見事倒すことが出来た。

「何度かやれば簡単に出来るようになるし……ここにソロでくるときがあったら、最後の一発……MPがぎりぎり残り一発のときは倒そうとしないで、先にMP回復したほうが良いな。魔法を使うクラスは魔法を使うことより、MP管理の方が肝だから」

「は、はい! あ、ありがとうございます!」

 アリサエマに凄く感謝されたが……なんだかくすぐったい感じだ。

「……お見事です」

 なぜかネリウムがそんなことを言った。

 別に大したレクチャーはしていない。一般的なコツをアドバイスしただけだ。

 リルフィーは何も言わなかったが、例のキラキラした目で俺を見ていた。……そのうち、反射的に攻撃してしまいそうだ。その時に剣を抜いてなければいいのだが。

「タケル、優しいんだね!」

 理由は解からないがカエデのポイントが上がったようだ。カエデはニコニコと機嫌よく笑っている。

「それじゃ、また移動するとするか!」

 なんとなく気分が良くなったのでそんな掛け声をかけると、みんなもノリ良く「おーっ!」と返事をしてきた。

 なんでか知らんが良い雰囲気だ。

 和やかな雰囲気ので進むうちに、草原はまばらな感じに変化していき……荒野とでも言うべき景色に変わった。

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