強敵
リルフィーと三人組、ジョニーとさやなんとかを意識の隅の方へ追いやり、戻ってきた男達を観察する。
そいつらは女だけで固まっていた集団のすぐ近くに陣取り、お互いにチュートリアルの感想を言い合っていた。「チュートリアル」の言葉がさり気なく強調されている。
……少し構成が不自然すぎる気がした。
内訳は『主人公』『ワル』『美形』『お笑い』の教科書通りで理想的なフォーマンセル……間違いない、偶然と言うには整いすぎた構成だ。そして構成に合わせたベースアバターの改造もしているに違いない。
『主人公』の外見は敢えて言うなら平均的だ。
ほとんど全ての要素が平均より僅かに良い程度で留められている。これはたぶん、意図的だ。没個性的になってないのは男性的な印象が強いからだろう。加算法より減算法で判断する相手に強い感じに思える。金髪碧眼なのは舞台背景を踏まえた結果か?
『ワル』の外見は典型的なツボをおさえてある。
黒髪に黒い肌、瞳はなぜか金色で野生的な……ベタな表現だが狼のような感じだ。きつそうで、ワガママそうで……多少は乱暴そうにも見える。ダメな相手には全くダメであろうが……弱い相手には天敵レベルの攻撃力だろう。
『美形』は男の俺が見ても美しいと思えた。
薄い青で凄く長い髪。透けそうなほど白い肌。長身だが女性と見間違えるような美形。一人だけ長身にしてあるのは女性的イメージを回避するためだろう。これまた弱い相手にはとことん強い感じだ。表情の動きが少なく、姿勢にもほとんど揺らぎが無いのはわざとだろうか?
『お笑い』の外見は『主人公』近い。
『主人公』と異なるのは、全ての要素が平均的程度に留めているところだ。なんというか、ありとあらゆる点で「惜しい」と感じる。しかし、それでいながら目立つ欠点は全く無い。一番強く感じる印象は「愛嬌がある」だろう。
俺の知識では四人のモデルが誰なのか判別がつかないし、『美形』以外からはVR整形顔の違和感を覚えさせない。『美形』にしても、目の肥えたものがそれと思って見なければ気がつかないはずだ。
「あの……チュートリアルどうでした?」
四人組の撒き餌に獲物がかかる……狙い通りなんだろうし、合理的でもある。
相手から仕掛けさせたほうが有利なのは、ありとあらゆる戦いの常識だ。しかし、それだと不要な獲物もかかってしまうのだが――
「うっぜぇな……そんなの自分で調べれば良いだろうが」
『ワル』が獲物を無下に斬り捨てる。
「おいおい! そんな言い方すな! ごめんしてや、こいつ人見知りなんや」
『お笑い』が大げさだが愛嬌のある仕草をしながらフォローした。
「せっかくなんだから、みんな仲良くしようぜ」
『主人公』がさり気なく現状を肯定する。
「それがいいと思います」
『美形』が締めくくる。
……なるほど。好ましくない相手は『ワル』が排除して、『お笑い』が場の空気を取り繕う。『主人公』は全体の方向性をコントロールといったところか。いまのところ『美形』の役割は解からない。
四人組に話しかけたプレイヤーは気後れしたのか曖昧な笑いをしたまま、会話を続けようとはしなかった。目論見通りといったところか。たぶん、この後は……さり気なく会話の輪から弾かれていくはずだ。……似たような経験が無くもない。
しかし、敵ながら見事だ。ログイン前から何度も検討してきたに違いない。
この四人がβテスト開始直後にたまたま出会い、それがたまたま見事な戦力バランス、難なくその場で意思統一、役割分担も決定、チュートリアル最速クリア作戦を立案・合意・実行、有事の際のマニュアルも検討済み……そんな訳が無い!
俺も思いついていれば……協力する仲間さえいれば似たような戦術を採っただろう。思わず横にいたリルフィーを見やる……奴はキョトンとした顔で俺を見返すが……思わず深い溜め息が漏れる。
「あの人たちかっこいい……」
「さやタン!」
俺の視線に釣られていたのか、さやなんとかも四人組を見ていたようだ。というか、こいつらまだ隣にいたのかよ!
またも二人は喧嘩をはじめる。いいかげん、どこか俺の迷惑にならない所で不幸になってくれねぇかな……。
「ちょっと、アンタ! さっきから態度悪いわよ! まるであたしが無視されているみたいじゃない!」
俺の注意が戻ったのを好機とみたか、灯が俺に言い掛かりをつけに近寄ってきた。
無視されているみたいではなく本当に、完全に無視していたのだが……それを説明するのも億劫でしかない。灯のような人間は全く理解不能だ。俺に恨みでも……思い当たる節は数え切れないな。
「そこの人たち、喧嘩はよくないぜ?」
なぜか俺たちに『主人公』が話しかけてきた!
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