三人組

 その声は三人組と取り巻きの男達の方からで……最悪なことに中心となって騒いでいた赤毛のロングツインテールのものだった。

 赤毛は可愛いと褒めても、美人と褒めても男の良心は痛まないレベルで、最終的には可愛い派が勝利をおさめそうな感じか。少しつり上がった大きな目は気の強そうな印象を与えるし、人によってはワガママそう、意地悪そうとも言うだろうが……大きな魅力にもなっていそうだ。

 その赤毛が腕組みをして俺とネリウムの方を不機嫌そうに睨む姿は……『幼馴染ご立腹の像』とでも名付けたいくらい見事ではある。秋葉原あたりで売っていてもおかしくない。

「ちょっと……悪いよ……いきなり……」

 そう赤毛の服を引っ張るのは三人組のうち一人だ。

 黒髪のフワフワした感じの髪型で……大人しそうで女の子っポイ印象を強く与えてくる。顔は整っている部類だが……それよりも優しそうな雰囲気が好印象といったところだろうか。

 そして三人組の三人目が……いない。なるほど、ネリーことネリウムは三人組の三人目だったのか。全くそう見えなかったので気がつかなかった。

「すいません……悪い子では無さそうなんですが……正直と言うか……口が悪いと言うか……」

 ネリウムが俺にすまなそうに謝る。

 『正直』の部分に議論の余地があるが……まあいいだろう。発言から考えるに、あの赤毛とネリウムは知り合ったばかりの様だ。どうするべきか……。

 ここで断っておくが、赤毛とは初対面だ。

 少なくとも俺の幼馴染で、隣の家に住んでいて、毎朝悪態をつきながも起こしに来るなんて間柄ではない。

 たまたま倍率数千倍のオープンβテストで幼馴染と鉢合わせるなんて……それはそれで良いと思うが起こらないのだ。

 第一、赤毛からは厄介ごとの気配しか感じない。

 どうするべきか考えていると、わざとらしく『チュートリアル』に強いアクセントを掛けながら話す男プレイヤー達が、噴水広場の方へ向かってくるが目に入った。

 まずい、チュートリアル最速クリア組が戻り始めている。時間が無いのに赤毛に構っている暇は無い!

「ネリウムさん、連れの子が呼んでるみたいだし……俺には構わず……」

 断腸の思いでネリウムを促す。

 赤毛との無益なトラブルを抱え込むくらいなら、ネリウム狙いを諦めた方が良い。……それに、たぶん、ネリウムは酸っぱいはずだ。

「さっきの奴もきもかったし……ネリー、こういうの好きなの? ちょっと趣味悪いんじゃない?」

 ……最悪だ。赤毛の方から俺達の方へ近づいてきやがった。


 赤毛の態度を端的に表現するならば……『調子に乗っている』だ。

 リルフィーを悪く言うのは良い。リルフィーは残念ながらきもいと言われても仕方が無い。だから、それは良いとしよう。

 だが、俺のことを知っているなら……自分から近づいてきて、俺とリルフィーを一緒くたにする侮辱は調子に乗っているとしか言いようが無かった。

「ちょっと……灯(あかり)……喧嘩とか良くないよ……」

 仕方なしについて来たのか、黒髪の子の方が言う。

 俺は二人のキャラクターネームを確かめておくことにした……赤毛の方が『灯』、黒髪の子が『アリサエマ』だった。

 明らかにアリサエマの方は俺を怖がっている。その方が正しいと思うし……それで何となく色々と解かってしまった。……色々な意味で関りたくない。

「灯……少し失礼ですよ。第一、男性の魅力は中身にあると思います」

 ネリウムも灯をたしなめる。

 ……全く言葉通りに聞こえない。いや、言葉通りにも聞こえる!

 やはりネリウムは恐ろしい人だ……ガチの人だ……酸っぱいという判断は間違ってない!

「……ちょー! 灯ちゃーん。そんな冴えない奴に構ってないで……狩りでも行かないか?」

 焦ったのか取り巻きの男が言う。

 男に何と言われても別に構わない。奴らにしてみればいままでの苦労が水の泡で、鳶に油揚げを盗られるところだが……俺が助けてやる筋合いでもないだろう。

 それにしても自分を……灯を中心として、美人のネリウムと優しそうな女の子に見えるアリサエマを揃えるか。パーティハントの概念は理解している様だ。バランスが良い。それだけは評価できる。

 上手く行ってるだけに、灯は調子に乗ってしまったのだろう。

 面倒だし、関りになりたくないし、時間もないし、チュートリアル最速クリア組が仕掛けだしている……ここはネリウムには悪いが無視させてもらうしかない。

「ちょー……タケルさんに失礼なこと言わないでくれよー。ここはみんな仲良くいこうぜ!」

 いつのまにかリルフィーが「流石、タケルさんです!」とでも言い出しそうなキラキラした目で俺を見ていた。懐かれ過ぎて気持ちが悪い。それに「どうです? 俺の援護射撃! けっこう俺って使えるでしょ!」といった感じのドヤ顔でもあるのが不愉快だ。

 ああ……ダメだ……コイツ……全く解かってねぇし、使えねぇ……。

 「リルフィーは急いでなんとかする」と心の中のメモを訂正する。


「というか、いつ戻って来たんだよ!」

「えっと……いまさっきです」

「どうやって?」

「えっ? そりゃ……歩いてですよ。リスタート地点すぐ近くだったし……」

 思わずツッコミを入れてしまったが――それで嬉しそうなのも不愉快だ――リルフィーは別に変なことは言っていない。

 死亡時に受けるペナルティはゲームによってさまざまだが……開始直後の場合は何も無いことがほとんどだ。精々がリスタート地点から歩き直さなければならない程度だろう。

 しかし、奴の面の皮の厚さは大したものだ……俺だったら到底、ここに戻ってこれない。

 なぜなら、俺たちの近くにはジョニーとさやなんとかがまだ居て――いつの間にか喧嘩は収まり、今度はイチャイチャしてやがる……爆ぜろ! ――ここに戻ってくるのはかなりの精神力が必要だ。

「大丈夫なんですか? かなりの大怪我でしたが……」

「平気、平気! ちょっと痛くてビックリしたけど……もう傷一つ無いよ! ほら!」

 何を思ったのかリルフィーは自分の腹をネリウムに見せつける。おもいっきりセクハラまがいだと思うのだが、さやなんとかの時といい……奴はセクハラのライセンスでも持っているのだろうか?

「あらあら……まあまあ……ここにあった傷が――」

「あ、あのっ! ネリウムさん? す、少し痛いんですが……」

「あっ……すいません。触られるの嫌でした?」

「い、いえ……別に良いんですけど……その、少し痛かったので……」

 リルフィーはジョニーたちを全く気にする様子も無くネリウムと仲良くしている……のだろうか?

 ネリウムは何かとリルフィーの腹を触るが……その度にリルフィーは痛いのかもぞもぞしている。リルフィーも嫌なら腹をしまえば良いと思うのだが……。

 ネリウムもネリウムで「ごめんなさい」だの「すいません」だの言っているが一向に止める気配が無いし……リルフィーが痛みに悶えるとご満悦に見える。

 ちょっと俺にはついていけない高尚な感じだ。

 ここはリルフィーを生贄に捧げ、灯たち三人の相手をさせておくべきだろう。なぜかネリウムに気に入られているし、奴なら必ず下手を打ってくれるに違いない。

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