分類
「す……すごーい! タケル、凄いね!」
カエデが手放しの賞賛で俺を褒める。興奮しているのか、俺の腕をぽふぽふと叩くがまるで痛くは無い。カエデの小さな手のひらの方が心配になるくらいだ。なんていう名前なんだろう? この小さな可愛い生き物は!
損得勘定でいえば明らかにマイナス――俺はこのゲームで『鑑定士』として活動する気が無かったからだ――なのだが……カエデのおかげで全てが報われた気がした。
「まあ……ちょっとな。奴らみたいにロールプレイするなら女扱いするべきなんだろうが――」
そう言いながら四人組を探していたのだが……見当たらない。
「あっ! あいつら! いつのまに! ……追いかけますか、タケルさん?」
神妙な顔でズレまくったことを言い出すリルフィー。
あいつらがログアウトしてたらどうやって追いつくつもりなんだ? まだゲーム内にいたとしても……追いついてどうするつもりなんだ?
おそらく、あいつらは俺達がバカな話をしてた間に撤収したのだろう。敵ながら見事な引き際だ。できれば『お笑い』とはもう関わり合いたくない。あいつは俺より上手すぎる。
「でも……なんで灯は……ネカマなんてしたんですかね?」
「お前が言うのかよ! こっちが聞きたいわ!」
リルフィーの妄言に思わずツッコミを入れてしまった。
こいつは『最終幻想VRオンライン』では女キャラクターをアバターにしている。つまり、広義の意味でネカマだ。
「いや……そりゃ……『最終幻想VRオンライン』では女キャラクターですけど……それもネカマになるんですか?」
不思議そうな顔で逆に聞き返された。
「……前々から聞きたかったんだが……お前、どうして向こうじゃネカマやってんだ?」
「へっ? そりゃ当然……有利だったからですよ? いまじゃ仕様変更で男女差ないですけど……それに女アバターの方が可愛いじゃないですか!」
予想通りの返答が返ってきた。リルフィーは裏表が無さ過ぎるというか……たまに三次元人なのか疑うときすらある。
リルフィーのようにゲーム的な有利不利――たとえば『最終幻想VRオンライン』では、男のアバターより女のアバターの方が十分の一秒ほど剣を振るのが速かった――や見た目で女のゲーム内アバターを選ぶ奴は、そんなに珍しくない。
俺はこのパターンをファッション・ネカマと分類している。
ファッション・ネカマの奴らは中身が男であると公言しているか、問われれば答えるから実害はあまり無い。……稀に事故にあう男がいるが、仕方の無いことだろう。
実害があるのが詐欺師・ネカマに分類できる奴らだ。
このタイプは一人美人局というか……一人ハニートラップというか……実益を求めてネカマになる。哀れな犠牲者はネカマと知らず、ゲーム内アイテムなどを騙し取られてしまう。
慣れていない人には理解不能だろうが……MMOでは詐欺も方法論の一つだ。誰もが詐欺と認めるような行為をしても、なに一つペナルティーは科せられない。それどころか、強盗や恐喝、殺人すら容認されている。
全てが自己責任という掟を忘れた者を誰も助けてはくれないし、嘆いても騙し取られた『アイスソード』は戻って
しかし、ここまでは分かるといってもいい。詐欺師・ネカマは一生許すことができそうも無いが……理解は可能だ。
しかし、全く共感できないネカマもいる。
MMOでよく見られるのだが……『姫プレイ』というスタイルがある。
一人の女プレイヤーを中心にして――この人物が『姫』だ――男が親衛隊のごとく取り巻きを形成するプレイスタイルだ。
このプレイスタイルでは姫君と家臣、教祖と信者、アイドルとファンのような集団が構成される。
こんな風に説明すると性悪女と馬鹿な男達に思えるだろうが……本人達が幸せなら外野がとやかく言うことでもないだろう。不思議なことに集団としては異常な安定性を持っているし、普通は『姫』役の一方的な搾取にもならない。
……アイドルが一方的にファンから搾取していると考えるのはおかしいだろう?
問題はそれをみて「自分も『姫』となってチヤホヤされたい!」と安易に考え、ネカマをはじめる奴がいることだ。
それが姫・ネカマである。
賛否両論、色々あるだろうが……俺は奴らの行動理念が「チヤホヤされたい」にあるのが問題だと思う。
チヤホヤされて嬉しいというのがまず理解できない。いや、そこまでは百歩譲って認めるとする。
しかし、チヤホヤしてくれるのは男なのだ。
かなりの才能を要求されるが『王子プレイ』――ようするに『姫プレイ』の男女逆転版のことだ――だって実在はする。
どのみち姫・ネカマも努力と才能を要求されるのだ。それなら万難を排して『王子』を目指したほうが建設的だと思うのだが……それでも……男にチヤホヤされるために、わざわざネカマにまでなる。
もう、価値観が違うとしか言い様がない。
おそらく、灯は俺が『最終幻想VRオンライン』で目に付いたネカマを片っ端から断罪していた頃――とある事情で荒れていた時期があったのだ――に会った誰かだと思われる。
そう思いたい。動機が復讐なら理解はできるからだ。
もしかしたら縁もゆかりもなく……ただ有名人である『鑑定士』の鼻を折りにきていただけの可能性はある。
……腕自慢のネカマが勝手に、俺へ挑戦してくることも多い。
リルフィーと初めて会ったときもその類の輩かと思い、ちんぷんかんぷんな会話がなされたのだが……まあ、それは別の話だ。
とにかく、灯のような人間は本当に理解に苦しむ。
しかし、灯より遠い……違う世界の人としか言い様の無いネカマもいる。
それがアリサエマのような人だ。
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