エピローグ、もしくはプロローグ
『できるVRMMO』の話を知っているか?
ああ、ここのようなVRチャットルームやインターネット掲示板で、最近話題になっているゲームのことだ。
もうすぐ正式サービス開始であるというのに、情報は錯綜してしまっている。君たちも本当のところが知りたいはずだ。
手っ取り早く、君たちが最も知りたいことについて答えておこう。
本当にできるのか? それが知りたいんだろう?
ズバリ答えよう。
『できるVRMMO』ではできない!
ああ、もっともだ。君たちが疑うのも解かる。俺を信用できないのも無理もない。疑問には一つひとつ答えていくつもりだ。まずは安心して話を聞いてくれ。
なに? 多くの成功談や自慢話を聞いた?
……認めよう。それは事実と認めよう。
君がどんな噂話を耳にしたのか判らないが……おそらく、それは本当のことだ。
半分は嘘やでっちあげと断定できる。しかし、残念ながら半分は事実だ。
ああ、根強く支持されている説――運営会社のステマじゃない。
それならできるはず?
理論的に可能であることと、実現可能かどうかは……大きな隔たりがあるだろう?
確かに君が言う通りだ。依然として理論的には可能だ。これは正式サービス開始後も変わらないと聞いている。
しかし、それでもできない!
なぜなら実現不可能だったからだ!
自分がいて、相手がいて、システムで可能だからといって、実現するはずだと言うのは……少し論理が飛躍しすぎだろう?
意味が解からない? それなら誰だってできるだろう?
誰だってと言ったか? 誰だって……ふふ……誰だってか。
……貴様、さてはリア充だな?
すまないがリア充にはお引取り願おう。ここは貴様のようなリア充がいていい場所じゃないんだ。
……ああ、最後に一つだけ聞いても良いか?
貴様は『できるVRMMO』を始めるつもりなのか?
そうか。解かった。答えてくれたことには感謝する。そして次は向こうの世界で……戦場でお会いしよう。……楽しみにしておくよ。
すまないな、話が中断してしまった。
リア充はどこにでも現れる……嘆かわしいことだ……そして憎むべきことだ。
そういえば自己紹介がまだだったな?
俺は『できるVRMMO』で設立されたギルド『RSS騎士団』に所属しているタケルというものだ。
我が『RSS騎士団』は有史以前から綿々と存続してきた最大派閥で――
あー……違う! そんなんじゃない。これは宗教勧誘でも詐欺商法の類でもない!
すまないが落ち着いて……席を立たない! 静かに話を――
……ふう。
諸君! 「リア充爆ぜろ」と思ったことはないか?
どうしたんだ? もう、大声で喚いたり、机を叩いたりをしなくてもいいのか? ……だったら話を続けさせてもらおう。
あるんだろう?
「リア充爆ぜろ」と念じたことが……「リア充死ね」と呪ったことが……力を欲したことが!
あるはずだ! 諸君の中にも正当なる怒りの炎が!
我々が与えよう。我々が用意しよう。
力も! 術も! 必要な全てのものをだ!
我が『
この場は栄光ある我が騎士団の崇高なる目的と存在意義を――
すまない、諸君。大事な話の最中だが雑事が起きた。
そこのお前! そう、笑っているお前だ!
……貴様、さてはリア充だな?
軍曹! 敵性分子だ! つまみ出せ!
全く……リア充の輩はどこにでもいる。本当に申し訳ない。それでは話を続けさせてもらおう。
我が『RSS騎士団』の目的はただ一つ! それは――
リア充の撲滅だ!
そして我が騎士団は名誉ある諸君の力を必要としている!
……すまない。また中断だ。
そこの君……いま何と? もう一度言ってくれないか?
「何を言っているのか理解できない?」だと? 君が何を言っているのか、俺の方こそ理解できんよ!
君の周りにいる誇りある者たちの顔を見たまえ! この単純にして気高い使命を理解していないの君だけ――
……貴様、さてはリア充だな?
軍曹! ……処理しろ。
ふう……我々がいかに正しく、不屈の覚悟で挑もうと……奴らは蝗のごとく数が多い……嘆かわしいことだと思わないか?
だが我々は負けるわけにはいかない! そうだろう? 同士諸君よ!
まずは『できるVRMMO』からだ。数ある兄弟騎士団の中から我が『RSS騎士団』は、この邪悪なゲームの浄化を任じられた。
まずはゲームを……そして次は世界を浄化するのだ!
なに? どうすれば良いのか教えてくれ?
落ち着くんだ。まずは冷静になるんだ、頼もしき同士よ!
セクロスだ! セクロスを封じるんだ!
リア充の奴らはセクロスができなくなると死ぬ。それは諸君も知っての通りのことだ!
だから我々は徹底的に奴らの活動を阻害すればいい。都合の良いことに……実力行使の許された世界だからな。
ああ、同士の言う通りだ。必要な行動は多岐にわたる。少し待ってくれ。テキストを用意している。
アリサ。同士諸君にテキストを配ってくれ。
このテキストにあるように……PKやMPKによる直接的な排除。『宿屋』などの最重要施設の封鎖。これが軸となる活動だが……もちろん、これだけでは完璧とは言い難い。
ああ、その通りだ。諸君が聞いたリア充どもの成功談や自慢話は、初期にMPK部隊の配備とPK部隊の編成が遅れたことが敗因だ。
だが、安心してくれ。現在は水も漏らさぬ監視体制が構築できている。
しかし、このテキストを見ての通り……実働部隊もそうなんだが……兵站にあたる生産職の数が足りない。他にも資金調達、攻略研究、攻略実施、情報収集……ありとあらゆる部門で人手不足なのが現状だ。
うん? ああ、そこにある入団条件は事実だ。
我が騎士団は女人禁制の掟がある。だから女性の入団を受け付けていない。母体団体が有史以前から受け継いできた最古の掟なんだ。この掟は絶対に変更できない。
アリサのことか?
アリサは……彼女は厳密には我が騎士団の団員ではないんだ。下部組織というか……『特殊』部隊というか……すまない、これ以上は部外者には教えることができない。機密事項なんだ。
友好条約を結んだギルドに『聖喪女修道院』というのがある。そちらに紹介状を書こうか?
うん? いや『聖喪』は特に過激な活動はしていない。穏やかに女性だけで集まって、ただゲームを楽しむだけだ。
え? 活動的な団体を紹介して欲しい?
うん……『不落の砦』という女性だけの活動的なギルドもあるんだが……。少し過激すぎるというか……。
ああ、男にも紹介状が書けるギルドはある。
俺が紹介できるのは『象牙の塔』と『妖精郷』だ。どちらも『魔法使い』か『妖精』であることが入団条件だが……うん? いや違う。ゲームキャラクターがじゃない。リアルの方でが条件だ。
たまにイライラするときもあるけど、基本的に気のいい人たちばかりだ。まあ、向こうは仙人みたいもんだからな。俺たち若造とは違うのは仕方がない。
おや?
残念だがこのルームの退出時間が近づいてきた。
すまない、最後にもう一度だけ話をさせてくれ。
我々『RSS騎士団』は諸君らの助けを必要としている!
志を同じくするものはそのテキストのアドレスに連絡をしてくれ!
ゲーム内で直接コンタクトを取ってくれてもいい!
正しき戦士達の参戦を心から待っている!
最後に一緒に叫ぼう!
「リア充爆ぜろ! リア充死ね!」と!
ありがとう! ありがとう! こんなに一体感を感じたのは初めてだ!
それでは同士諸君! 『できるVRMMO』でまた会おう!
【『できるVRMMO ~正式サービス開始編』へつづく】
できるVRMMO curuss @curuss
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