疑問

 痛い目にあわせるのは失敗してしまったが……疑問には答えさせることにした。

「ところで……どうやって成人認証したんだ? ベースアバター自作したのか?」

「いや……さすがに新型ベースアバターを……というか、旧式でも自作なんて無理っすよ」

「……ベースアバター屋にコネでもあるのか?」

 それなら新型ベースアバターの入手も可能かもしれない。

「いえ……コネも無いんで……スキャンシステムの方を買ったんっすよ」

「えっ! お前……もしかして、とんでもない大金持ちなのか?」

 ベースアバターの作成用スキャンシステム……それも新型ベースアバター用であれば高級外車や小さなマンション一戸くらいの金額になる。それを単なるゲームにつぎ込むなんて、大金持ちで頭がおかしくないと無理なはずだ。

「いえ、それも……内緒ですよ?」

 そう言いながら、俺の耳元に口を寄せてくる。内緒話をしたいのなら個別メッセージの方が万全ではあるが……相手が目の前にいるならこの方が早い。

 リルフィーの説明によれば……オープンβ実施とその条件が発表されてすぐ、未成年者による参加の企てがなされていたらしい。

 ベースアバターの本人確認と成人認証の中身は簡単なものだ。確認しましたとデータに明記されるだけである。

 しかし、当たり前だが未成年者には確認作業そのものが鬼門だ。

 ベースアバター屋に頼らなければ……新型ベースアバターを作成可能なスキャンシステムを所持していれば問題は解決できる。

 ただ、高価なものだし、設置する場所も必要となる。当たり前と言えば当たり前だ。だからベースアバター屋は商売が成り立つ。

 そこで企画者たちは考えた。

 スキャンシステムを共同購入することにしたのである。

 手順は以下の通りだ。

 最初に参加者を募る。ここで購入費を人数割りした代金を払えない者は参加できない。

 次に設置場所の提供者を募る。これは先立って決められる場合もあったそうだ。

 そして参加者達は会場……提供された設置場所で新型ベースアバターを作成する。自分達で操作するのだから、本人確認も成人認証も思いのままだ……完全に犯罪ではあるが。

 最後に不要となったスキャンシステムを売却する。新型ベースアバター用であるから需要は確実にあるし、中古としても美品だ。がんばれば買値の半額くらいで売却できたらしい。

 その売却益は会場提供者への謝礼や中心人物の手間賃を抜いたあと、参加者に人数割りで返却する。参加人数が多かったり企画の中心人物が良心的であれば、通常の値段より安く済む場合すらあったそうだ。……もちろん、割高になる場合がほとんどだったらしいが。

 それでも、参加者にすれば入手できれば満足だろう。

 関東と関西だけでも数グループ、さらに地方でも実施されたそうだから、少なくとも千人以上の不正規アバター利用者……未成年者が紛れ込んでいる勘定になる。

 その説明で二つの――一つはリルフィーのベースアバター入手方法――謎が解明された。

 ……いや、二つ目の謎は確認を取らねば!

「リルフィーは……リルフィーはその会場で女を見たか?」


「えっ?」

「その会場で女を見たかと聞いている」

「いや……それは……少ないけど見ましたよ。それが……何か?」

「そうか!」

 男女を限定せず、明らかに若く見えるプレイヤーが多いのが謎だった。

 例えば俺やリルフィーは高校生か大学生に見える外見だが、童顔の成人で通すこともできる。

 しかし、明らかに中高生……中学生か高校生にしか見えないプレイヤーもいた。ごく稀に……ごく稀に中学生にしか見えないプレイヤーすらいる!

 特に女プレイヤーで未成年に見えるのは要注意に感じていた。

 それが『どう見ても中高生にしか見えない成人女性』というレア種ならば問題ない。それはそれで良いもので……戦意も滾るというものだ。

 しかし、リルフィーの説明を聞くまでは『ベースアバターを過剰に弄くった女』という……非常にアレな臭いを感じていた。

 だが、その予想は間違っており……どう見ても中高生に見える女は単純に中高生なのだ!

「中高生……アリだな!」

「えっ?」

 リルフィーが驚いた顔で俺を見た。そして、目だけを逸らしながら――

「えっと……悪くないと思いますよ。……紳士っていうんでしたっけ? 俺は同い年か少し年上の方が良いですけど……」

 などとフォローのつもりか甘い見解を述べる。

 こいつは俺が成人していると勘違いしているからそう思ったんだろう。

 確かに二十代で中高生好きはやや際どいロリコンだ。三十代では確実にやばい人犯罪者予備軍だろう。だが、俺は現役高校生。相手が高校生でも普通だろうし……中学生でも多少は許されるはずだ。

 また、ストライクゾーンにボールが来たら全力スイング! それが新人に求められる姿勢だろう。ボールが高いの低いの……そんな贅沢はベテランプレイヤーになってからで十分だ!

 ……もちろん、MMOの話である。

 それに悪い予測も立ってしまった。

 予想以上に多く、しかも隠しようもなく未成年者のプレイヤーがいるなら……規制が入るのは思っていたより早まりそうだ。勝負を急ぐ必要があるかもしれない……この楽園は最初から時限式なのだから。

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