第18話


「みどり、そろそろ向こうに帰ろう。」


なんだかんだ買い物したりご飯を食べたりしてたら夕方だ。

こっちにきていると初めてのことが多すぎて時間の流れが速く感じる。


「そうですね。

買い物も終わりましたし、帰りましょう。」


門から出て惑わせの森に帰る。

魔法をうまく使えるようになったからかはじめてこっちにきた時よりだいぶ移動も速くなった。


扉を通り、日本に帰る。


「はぁ、帰ってこれたー!!」


「また言っているのか。」


「何回向こうに行っても不安なものは不安なんです!帰ってこれなくなる可能性もないわけじゃないんですからね!」


「この扉が出来てからだいぶ経つがそんなことにはなったことがない。」


「そんな昔からあるんですか??」


「はっきりとは記録に残ってないが、数百年は確実にある。」


「そんなに!?

よくずっとバレずにいられましたね!」


「各国の上層部はもちろん知っているぞ。

前にエスティーリルについて説明した時に話しただろう。扉もこっちの世界に8箇所ある。」


え!?

各国の上層部は知ってるって・・・、そんな大きな話だったの!?

私、国家機密知っちゃったみたいな感じだったの!?


「当たり前だろう。

エスティエーリルからきた人はこっちで生活して働いたり学校に行ったりもしてる。

戸籍がないと無理だろう。

新しくエスティーリルからこっちにくる者がいる場合にこちらの世界の上層部と手続きをするのも私の仕事だ。」


「た、たしかに。」



嶺二さんがこっちの世界でお仕事があるといっていたけど戸籍や住所がないと無理な話だ。

監視されるっていってもネックレスつけられてから少し手伝いする以外普通に生活して仕事もさせてもらえてるし、そんな大きな話じゃないと思っていた。

よく考えたら異世界があって扉で行き来できるってすごい話だもんね。

今になって怖くなってきた。

そんな重大な話をこんな一般人が知ってしまって大丈夫なのか。


「まぁ、バラさなければよい話だ。」


「ぜったいに、ぜったいに、バラしません!」


「ならなんの問題もないだろう。

もう夜だ。今日はもう帰ってまた明日の帰りに顔を出しなさい。」


「はい、ではまた明日。

おやすみなさい。」


そういうとアオイさんは少し驚いたように目を見開き、「あぁ。」とだけ答えた。





「はぁー、疲れたぁ。」


家に着きみどりはベットに倒れ込む。

もちろん浄化魔法をかけてからだ。

この魔法は便利すぎてシャワーの代わりや少し動いた後などもう自然にかけるのが癖になってしまった。


「そんな重大な秘密だったなんて。」


まさか、世界の上層部しかしらないような話だなんて考えてもいなかったのだ。

今更だがとんでもないことを知ってしまったと焦る。


もしバレてしまったら。

こんな一般人、国からしたらどうにでもできる存在だろう。

考えただけで恐ろしい。


「余計な事考えるのはやめよ。ま、バラさなければいい話だし。

異世界楽しいし、魔法便利だし。」


うん。バラさなければいいだけだ。

楽しくて、便利で、いいこと尽くめだ。

難しいことは考えないようにしてなんとか自分を納得させるのだった。







みどりが帰った後弓波は1人、ひと息つく。

エスティエーリルのことがバレてから、昼は仕事、夜は毎日のようにみどりに魔法を教え、土日は向こうの世界と行き来しているため1人でゆっくりと過ごす時間が少なくなっている。


「悪くない。」


春が急にドアを開けたせいでエスティーリルのことがバレてしまったが、ただ監視するだけでは面倒だと思い魔法を教え助手として使うことにした。


エスティエーリル関連についての各国とのやり取りの合間に依頼を受けた品物の作成、材料の調達等弓波の仕事は多い。

地球の人間は魔法の適性が高い者も多いと耳にしたことがあるし、どうせなら手伝いくらいできるようになればと思ったのだ。


地球の人間みんながそうかはわからないが、いざ魔法を教えてみると思った以上に才能があった。

教えたことをみるみる吸収していくし、向こうの世界でもなかなか使い手がいないアイテムボックスをさらりと使えるようになったのは驚いた。

それに、みどりとは一緒にいても不快ではない。


自分の容姿が整っている自覚はある。

こちらの世界でも向こうの世界も、こちらにその気がなくとも女は媚び、それが原因で何度も何度も揉めたことがある。

男も、自分の好きな女や婚約者が私に媚びているのは気分が悪いのだろう。それで上手くいかなくなった関係もいくつもある。

好きだの愛してるだの言われても話したこともないのに私の何を知っていると言うのだ。

気がついたら私は笑うことも、無闇に人と話すこともあまりなくなっていた。


しかしみどりはそれがない。

純粋に魔法を楽しんでいる。

他と態度を変えることも、媚びることもない。


「おやすみなさい、か。」


そんなことを言われたのはいつぶりだろうか。

仕事以外ではほとんど人との関わりもない。家の者とも疎遠になっている。


どんどん増える仕事の負担を少しでも減らそうと魔法を教えはじめたが、案外上手くやっていけそうだ。


久しぶりにゆっくりとした時間を過ごしていたらあっという間に遅い時間になってしまった。

弓波は浄化の魔法で身体を綺麗にし、明日の仕事にむけて眠りについた。

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