第37話


「お父さん、優しそうな素敵な人でしたね。」


「そうだな。

・・・父はお義母様から私を守るために家から出し、魔法の才能があるからと魔法が使える前の扉の管理人に預けてくれた。

きっと身分の高いお義母様から私を守るのは大変だっただろう。

家から出したとはいえ、父が精一杯できる限りのことをしてくれたのはわかる。」


「そうだったんですね。」



馬車に乗って宿へ向かう。

今日はあおいさんも私も正装だから、いつもよりもいい宿に泊まることになった。

いつも泊まっている宿にこんな格好で帰ったら狙われることもあるみたい。

やっぱり治安はあんまりよくないよね。

日本にいるときと同じ感覚でいると危険みたい。


食事をしながらたくさんお話ししたから、宿に着く頃には結構遅くなっていた。

明日は王都にいられる最後の日だから1日観光したり買い物したりする予定。

朝早く起きられるように、明日に備えて早く寝ることにした。



「おはようございます!

今日の王都観光、すごく楽しみです!

まずはいっぱい美味しいもの食べましょう!」


「わかっている。

向こうに屋台がたくさん並んでいるところがある。そういう方が好きだろう?」


今日はせっかくなので宿での朝食はとらずに観光がてら色々食べようと話していた。


「あおいさん、私の好みわかってますね!

さすがです!」


「これだけ一緒にいればな。

みどりの食い意地は十分承知だ。」


「もー!私そんなに食い意地はってないですよ!

あ、あそこの串焼き美味しそうですよ!行きましょう!」


「はははっ!」


お腹いっぱいになったので屋台の通かりから外れてお店を見る。

やっぱり王都だからかな?

おしゃれなものが多い気がする。


「あ。あおいさん、あの小物入れかわいいですよ!」


「本当だな。

アーシスにも似たようなものがあっただろう?えっと、なんていったかな・・・。」


「えーっと、螺鈿細工ですか?」


「そう!それだ。

アーシスのものは貝殻だが、これは魔物の素材を使っているな。」


確かに似ている。

螺鈿細工を洋風にした感じかな?

キラキラしていてすごく綺麗。


「店主、これをもらおう。」


「え!あおいさん、いいですよ!」


「せっかくの王都だろう。

ほら、前に買った髪飾りを入れるのにちょうど良いんじゃないか?」


確かに前に買った髪飾りを入れるのにサイズもデザインもぴったりだ。


「そうですね、ありがとうございます。」


小物入れを受け取って店を出る。

次は清水さんにお土産でも探そうかな。


「あおいさん、次はあっちの方に・・・」


「おい、テメェふざけてんのか!?」


大きな怒鳴り声が聞こえる。


「え!なに!?」


「向こうで何があったみたいだな。」


少し離れたところに人だかりができている。


「いくらお貴族様といえども娘は売ることはできません。勘弁してください。」


娘を売るって、どういうこと?

人ごみを覗き込むと、綺麗に着飾った女性たちを侍らせた貴族らしき男がいる。


「売るなんて変な言い方はしちゃいけねぇなぁ。

ただここにいるブラン様がお前の娘を気に入ったと言っているんだ。

だが娘は店を手伝っているようだから、お優しいブラン様は店のことも考えて娘を連れて行く間の迷惑料を払うと言ってくださったんだ。お貴族様に気に入られるなんて光栄なことだろう!

ほらっ、来い!」


問題の貴族は周りに屈強な男を何人も連れていて、お店のおじさんには太刀打ちできそうもない。


そんな!こんなの無理矢理も同然じゃない!


「いやっ!父さん、助けて!」


「娘は結婚が決まっているんです!

お願いします!勘弁してください!」


もう我慢できない!


「やめてっ!」


「なんだぁ、この女?」


つい口出しちゃったけど、どうしよう!?


「おまえ、貴族であるブラン様に楯突こうっていうのか!?」


「えっと・・・」


どうしよう!どうしよう!


「やめないか。」


「なんだと?

・・・お前、セレストか?」


「あぁ。久しぶりだな、兄上。」


「なぜお前が王都にいる!

・・・あぁ、だからお父様は王都に来たがったのか。お前に会いに!!」


え!この偉そうな人が、あおいさんのお兄さん!?

髪の色も目の色も、顔も性格も。何もかも似ていない。


「ふんっ。お前など、あのミラの外れの森の中から出て来なければいいものを。

その髪!瞳!顔!全てが忌々しい!」


あおいさんのお兄さんがものすごい顔でこちらを睨んでいる。

話を聞いた時にあまり仲は良くないんだろうなとは思っていたけど、ここまでだなんて。


「・・・ほぉ、お前が女を連れているとはな。

珍しい。顔を見せてみろ。

おいっ。」


あおいさんのお兄さんがそう言うと、横にいた男が近づいてきてみどりのフードを無理矢理掴む。


「いや、やめてっ!」


「ほぉ、この髪と瞳の色。初めて見るな。

他にない色か。気に入った。

セレスト、この女を俺に寄越せ。」


「断る。」


「・・・なんだと?」


「断ると言っている。」


「お前と俺は同じ公爵家だが立場が違う。

お前は父は同じでも母親は平民。

俺は母上が元王族で父上は公爵だ。それにいずれ俺は父上の後を継いで公爵になる。

それをわかっているのか?」


「わかって言っている。

みどりは私の大切な弟子だ。

兄上だろうと渡せない。」


お兄さんとあおいさんが向かい合ったまま、無言の時間が流れる。


「ふん、気が逸れた。

この俺がそんな女にムキになることはない。

お前たち帰るぞ。」


ほっ。

安心して腰が抜けてしまった。


「あおいさん、迷惑かけてごめんなさい。」


「あぁ。」


あおいさんはそう一言呟き、お兄さんが去っていくのを見つめていた。

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