第33話
「こちらでお待ちください。」
玄関の前で馬車から降り、執事さんに案内されて豪華な部屋に入る。
「あおいさん!ここ、ものすごい部屋ですよ。」
キラキラピカピカでお姫様でも住んでいそうな部屋だ。
「この部屋は客人やら他の貴族を案内する部屋だからな。他の部屋より豪華な作りになっている。
それからここではローブは脱いで大丈夫だ。
扉の管理は父に任じられた仕事だと言っただろう?アーシスへの扉の管理は代々うちの家に関わるものがやっているんだ。」
「そうなんですね。」
それに、貴族の人の前でローブ姿も良くないもんね。
ローブを脱いでふっかふかのソファに座り、思い出す。
どうしよう。こんな豪華なところに住んでいる人への手土産に、どら焼きを持ってきてしまった。
あおいさんが向こうには和菓子はないから和菓子なんていいんじゃないか?なんていうから!!
美味しいんだよ、このどら焼き。
予約ができないうえに美味しすぎて早く行かないと売り切れちゃうかくらい。
だけどこんなキラキラ豪華なところに住んでる人に渡したら、何これ?って思われないだろうか。
「あおいさん、どら焼きにしちゃいました。
どうしよう〜!」
「なんの話をしているんだ。」
「ふふ、なんの話をしているのかしら?」
えっ?
振り向くと栗色の髪に青い瞳のものすごい美人がこちらを見て微笑んでいた。
「はじめまして、私はエステル。そこにいるセレストの姉よ。」
セレスト?
はて?誰だろう?
「セレストは私の名前だ。
空に因んだ名前だからアオイと名乗るようになった。
エステルは星という意味だな。暗闇の中でも輝くからとつけられたらしい。」
あおいさんの家は、昔優秀な魔法使いが戦での活躍により王に使え貴族になった歴史があって、その魔法使いが魔法で空を飛ぶことができたから鷹の家紋になったらしい。
だから空や風に因んだ名前が多いみたい。
「はじめまして、アオイさんの弟子をしています!ミドリと言います。
よろしくお願いします。
これ、お土産のどら焼きです!」
「まぁ!ありがとう。
毎回セレストが持ってくるアーシスのお土産を楽しみにしているの。」
よかった。エステルさんはどら焼きを嬉しそうに受け取ってくれて、3人で食べながら話をすることになった。
「でも、セレストが弟子を取るなんてはじめてのことじゃない!
手紙で聞いた時はびっくりしたわ。」
そう話すエステルさんは執事さんが用意したナイフとフォークで上手にどら焼きを食べている。
「いろいろあって偶然こちらのことを知られてしまってな。
それがきっかけで店の手伝いをしてもらおうと魔法を教えたら魔力量も多くて覚えも早い。今はかなりいろいろな仕事を任せられるようになった。」
え!?そうなの??
私覚えも早いの?しかもそんなにいろんな仕事任されてたのね・・・。
「あら、ミドリちゃんが驚いているわ。
セレストったら、相変わらず言葉が足りてないんじゃないかしら。」
「困ってないからいいんだ。」
それからここ1年の近況報告をしたりアーシスの話をしたりとあっという間に時間が過ぎていった。
「それで、あおいさんが会社の前で待っていて、次の日はあのイケメンは誰!?って大騒ぎだったんですよ!いろんな人に聞かれて困っちゃいました。」
「あらぁ、セレストは自分の見た目が良い自覚が薄いものね。
セレストの顔はお母様にそっくりなの!
この目立つ髪色と目の色はお父様似なのよね。
2人の良いところばっかりセレストが似てて!ふふっ。」
「でもエステルさんと会ってすぐにアオイさんと顔がそっくりだと思いました。」
「ふふ。私は顔も髪色も目の色もお母様に似ているのよ。だから色は違うけどセレストとは似てると言われることが多いわね。」
「お母さん、きっとものすごくお綺麗だったんですね。」
2人ともものすっごく綺麗な顔だもん!
この2人がどっちもお母さん似だと言うならものすごい美人なひとなんだろう。
「お母様は平民だったの。
定食屋の娘で、お店の手伝いをしていたときにお忍びで町に遊びに来ていたお父様が一目惚れをしたと聞いたわ。
ものすごく綺麗で、とっても優しい人だった。
お父様とお母様はとても愛し合っていたのよ。
だからお義母様に目をつけられて、早くに亡くなってしまったのよね。」
ん?お義母さんに目をつけられて亡くなった?
お義母さんってお母さんが亡くなった後の奥さんじゃないのかな?
あれ?でもあおいさんが血の半分繋がったお兄さんがいるって言ってた気がする。どういうこと??
「あら?
セレスト、話していないの?」
「今までそういう機会がなかったからな。」
「うちは公爵家だから、お父様は平民のお母様との身分差で結婚はできなかったのよ。」
身分差。
そうか、こっちでは日本のように好きだったら結婚できるわけじゃないのか。
公爵って・・・あれ?もしかして貴族の中で1番身分が高い??
あおいさん、そんなにすごいお家の人だったの!?
でも公爵様と平民だと、結婚は難しいかもしれない。
「お父様とお母様は恋人同士になったけれど、周りからは認められなかった。
それでもお父様はお母様を娶るために周りを説得しようと頑張っていたのよ。
そんな時に王城でのパーティでお父様に一目惚れをしたのがお義母様だったの。
お義母様は隣国バスドニアから来ていた王女だったのよ。
お義母様はお父様と結婚をしたいと父親であるバスドニアの王に頼んで、そしてこのルーシェル王国の王からお父様に縁談の話しがきたの。
バスドニアは元々敵国で、和平条約を結んだ後の難しい時期だったからさすがのお父様も断れなくて。
だからお父様はお母様を妾にするしかなかった。
お父様は貴族だし妻を何人持っていても不思議ではないんだけれど、元々隣国の王女で気位の高いお義母様には平民の妾でお父様と想いあっているお母様は許せなかったみたい。
お義母様が嫁いできてから、お母様は離れに追いやられて嫌がらせを受けてどんどん弱って亡くなってしまったわ。」
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